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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
4章『枷咲』
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【Scene06:揺れる牙】



《The Echo》地下・戦術フロア。

薄い青白のパネルが脈打ち、ファンの低音が床から伝わる。


アリステアは壁際の端末に立ち、通信ログを何度目かのスクロールで止めた。


「……おかしい」


近くでメンテケースを閉じていたヨルが顔を上げる。


「何が? 姉さん、“ちょっとジンのとこ寄る”って──」


「それが六時間前だ。未読が三件。ジンにも確認した。“戻ってない”」


奥の卓でクロノが指を走らせ、都心のホロマップを立ち上げる。


「ビーコン反応、ゼロ。……自然断ではない。帯域ごと潰されてる。意図的なジャミングだ」


ヨルの笑みが、すっと消えた。


「……つまり、さらわれた可能性が高いってこと?」


「断定はしない。だが嫌な消え方だ」


アリステアは口元を押さえ、視線だけを鋭くする。


「レインは?」


「外回り中。呼び戻してるが、応答待ち」


短い沈黙。

そのとき、警告音。クロノが顔を上げる。


「ジンから通信」


ノイズ混じりの映像がスクリーンに開き、グリーンの髪とヘッドホンが現れる。


『……よう、牙のみなさん。俺が出る時点で、ただ事じゃないってことでいいか』


アリステアがすぐさま問う。


「ウィステリアは、そちらを出たあと?」


『出た。そこから足取りが消えた。監視網にも“穴”は作られてる……ただ、耳に入ってる話がひとつ』


息継ぎ。ジンの目が細まる。


『最近、桜蛇会が“ウィステリア”を嗅いでる。上野の下で、水面下がざわついてる。……七針の旧区画、地下に死角が多い』


画面が一瞬ざらつく。


『回線がまずい。裏は俺も走る。十分くれ──』


ぷつり、と映像が落ちた。


アリステアは静かに息を吐き、端末から視線を離す。


「……動こう。生きているうちに、取り返す」


ヨルが頷き、グローブをはめ直す。

クロノはホロに三本のルートを描き出した。


「一次捜索は三系統。ジンが言った“七針”に西から入るルート、地上の廃線跡に沿うルート、そして地下鉄跡の換気口からの逆侵入。レインが戻り次第、外周遮断を任せる」


ヨルが唇を結ぶ。


「俺が先行する。……今度は、絶対に離さない」


アリステアは頷き、短く告げた。


「クロノ、監視網の死角をレイヤで重ねてくれ。俺はジンの“穴”に当たる……ウィステリアなら、そこを選ぶはずだ」


「了解。《GR-α》仮起動、パケット偽装開始」


フロアの空気がぴんと張る。

誰も口に出さない。だが全員が知っている。


ウィステリアという“中心”が、ここにいる者たちの秩序であり、火だということを。


クロノが最後に告げる。


「作戦コード、《RECALL》。対象:ウィステリア。回収最優先、交戦は必要最小限。──出るぞ」


三人はうなずき、装備を取った。

青白い光が背を送り出す。


揺れたのは、恐れではない。

牙は、噛み殺すべき“沈黙”の方角へ、迷いなく向かった。



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