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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
3章 『解体』
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【Scene14:Stray Dog】



廊下は、出撃明けの夜よりも静かだった。

ウィステリアと並ぶアリステアの足音だけが、The Echo の床に薄く残る。


重い金属扉の前で、ウィステリアは踵で一度だけ強く押し開けた。

鈍い音が吸い込まれる。薄いカーテン。抑えられた照明。

分厚いガラスの卓上には、戦術マップが淡く浮いている。灰皿には火の消えかけた煙草。


椅子にもたれた男が、視線を上げずにぼそりと落とす。


「……また、捨て犬か」


アリステアの目がわずかに細まる。先に声を置いたのは、ウィステリアだった。


「違う。彼は、自分の足でここに来た」


沈黙が一枚、室内の空気に重なる。

グレイヴは煙草を灰皿に押しつけ、面倒そうに肩をすくめてようやく正面から見た。


「……だったら、責任はお前が取れ」


「ええ。取ります」


応じたのはアリステアだ。柔らかいが、揺れない声音。

襟元でチェーンが小さく触れ、彼はまっすぐに続けた。


「彼女が道を進む限り、僕はその隣に立ちます」


迷いのない眼差しを、グレイヴは鼻で笑って受け流す。椅子が軋む。


「好きにしろ。いまさら一匹増えたところで、吠える声が増えるだけだ」


背を向け、煙の匂いだけを残して歩き出す。


残された静けさの中で、ウィステリアがわずかに口元を和らげた。


「……歓迎する、アリステア」


アリステアは深く頭を下げる。

ここで生きる、と決めた。捨て犬ではない。牙の名のもとに並ぶ者として。



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