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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
3章 『解体』
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【Scene12:Break Down】



重い扉が押しひらかれ、青白い光に満たされた室内へ、四人分の影が差し込む。

天井まで並ぶ記憶データバンク。無数のカプセルが微かに脈動し、冷たく整列していた。


レインが天井の配線を仰ぎ見る。

「……ここが、本丸ってわけだな」


クロノは操作卓へ。端子を挿し、指先で層を割っていく。

「中枢コアは奥。直接制御を落とせば全系停止――ただし、罠は前提だ」


ウィステリアが視線だけで問う。アリステアが頷く。

「防衛プログラムは残っているはずだ。……だが、やる」


次の瞬間、赤色灯が回る。細い警告音が低く連続した。


──警報:起動

──遮断:出入口A・C

──自動防衛:準備中


クロノが即答する。

「分隊行動。俺とヨルでコアへ。残りは外周防衛」


「任せる、クロノ」

ウィステリアの一声に、ヨルが短く頷き、二人は奥へ消えた。


* * *


残されたウィステリア、レイン、アリステアの前に、警備部隊が展開する。

楯列、電磁警棒、スタン弾。問答はない。即座に間合いが詰まる。


レインが片眉を上げる。

「数、悪くないな」


アリステアが一歩、前へ。白衣のポケットから手袋を抜き、静かに装着する。

「下がって」


「……主任?」

レインが目で問い、ウィステリアは無言で射線を空けた。


アリステアの重心が沈む。

「医療用リミッターを解析して、自分用に調整してある。精密動作の効率化だ。……行く」


空気が裂けた。

肘、手首、足首――最短の軌道で関節が外れ、武器が床に落ちる。

反撃の間合いが開いた瞬間、ウィステリアが滑り込み、喉元へ指輪の針先だけを触れさせて制圧。

レインは背面から刃の腹で手首を弾き、無力化を重ねていく。


「“少しだけ”じゃねぇ身のこなしだぞ、主任」

「想定外の応用だ」

乾いた応酬だけが交わる。


圧が沈む頃、耳内通信が震えた。


──通信:クロノ

「コア制御、掌握。連鎖式に移行、逃げ道は確保。時限セットする――退避60」


ウィステリアが即座に号令。

「撤退準備。ここを離れる」


レインが通路に煙幕を投げ、視界を遮る。

アリステアは最後尾で倒れた兵の脈を確認し、無力化のままかを一瞥して追随した。


* * *


退避ルートに乗る直前、アリステアがわずかに振り返る。

白い列。冷たい灯。

その奥に、ほんの一瞬、彼女の横顔が見えた気がした。


「……ありがとう、花音」


誰にも届かない声で落とし、彼も走る。


──カウント:T−10

──T−05

──T−00


地下がうねる。低い轟音が遅れて胸腔を叩く。

記憶改ざんの中枢は、連鎖爆破で崩れ落ちた。

天井が砕け、白い墓標の列が炎と煙に沈んでいく。


彼らは無言のまま地上へ向かう。足取りだけが確かだ。

その背中は、もはや過去の“嘘”には縛られていなかった。



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