【Scene12:Break Down】
重い扉が押しひらかれ、青白い光に満たされた室内へ、四人分の影が差し込む。
天井まで並ぶ記憶データバンク。無数のカプセルが微かに脈動し、冷たく整列していた。
レインが天井の配線を仰ぎ見る。
「……ここが、本丸ってわけだな」
クロノは操作卓へ。端子を挿し、指先で層を割っていく。
「中枢コアは奥。直接制御を落とせば全系停止――ただし、罠は前提だ」
ウィステリアが視線だけで問う。アリステアが頷く。
「防衛プログラムは残っているはずだ。……だが、やる」
次の瞬間、赤色灯が回る。細い警告音が低く連続した。
──警報:起動
──遮断:出入口A・C
──自動防衛:準備中
クロノが即答する。
「分隊行動。俺とヨルでコアへ。残りは外周防衛」
「任せる、クロノ」
ウィステリアの一声に、ヨルが短く頷き、二人は奥へ消えた。
* * *
残されたウィステリア、レイン、アリステアの前に、警備部隊が展開する。
楯列、電磁警棒、スタン弾。問答はない。即座に間合いが詰まる。
レインが片眉を上げる。
「数、悪くないな」
アリステアが一歩、前へ。白衣のポケットから手袋を抜き、静かに装着する。
「下がって」
「……主任?」
レインが目で問い、ウィステリアは無言で射線を空けた。
アリステアの重心が沈む。
「医療用リミッターを解析して、自分用に調整してある。精密動作の効率化だ。……行く」
空気が裂けた。
肘、手首、足首――最短の軌道で関節が外れ、武器が床に落ちる。
反撃の間合いが開いた瞬間、ウィステリアが滑り込み、喉元へ指輪の針先だけを触れさせて制圧。
レインは背面から刃の腹で手首を弾き、無力化を重ねていく。
「“少しだけ”じゃねぇ身のこなしだぞ、主任」
「想定外の応用だ」
乾いた応酬だけが交わる。
圧が沈む頃、耳内通信が震えた。
──通信:クロノ
「コア制御、掌握。連鎖式に移行、逃げ道は確保。時限セットする――退避60」
ウィステリアが即座に号令。
「撤退準備。ここを離れる」
レインが通路に煙幕を投げ、視界を遮る。
アリステアは最後尾で倒れた兵の脈を確認し、無力化のままかを一瞥して追随した。
* * *
退避ルートに乗る直前、アリステアがわずかに振り返る。
白い列。冷たい灯。
その奥に、ほんの一瞬、彼女の横顔が見えた気がした。
「……ありがとう、花音」
誰にも届かない声で落とし、彼も走る。
──カウント:T−10
──T−05
──T−00
地下がうねる。低い轟音が遅れて胸腔を叩く。
記憶改ざんの中枢は、連鎖爆破で崩れ落ちた。
天井が砕け、白い墓標の列が炎と煙に沈んでいく。
彼らは無言のまま地上へ向かう。足取りだけが確かだ。
その背中は、もはや過去の“嘘”には縛られていなかった。




