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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
3章 『解体』
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【Scene08:記録】



無機質な白いパネル。天井まで届くデータカプセルの列。

音はない。緊張だけが、静かに張り詰めている。


クロノが端末を接続し、指先だけが滑る。


──接続:確立

──権限:管理者偽装(位階:高)

──対象DB:記憶改編履歴

──件数:おびただしい


レインとヨルは入口と死角を分担して見張る。

ウィステリアは、最奥の端末の前に立った。


「……これが、“記憶”を壊してきた中枢……」


クロノの手が止まる。


「アクセス成功。改ざん履歴……想像以上だ」


ウィステリアが眉をひそめる。


「“消去”じゃない。“上書き”。……本人が自分の記憶を“信じ直す”ように、流れを書き換えてる」


レインが低く息を吐く。


「……こんなもん、救いでもなんでもねぇ。ただの――洗脳だろ」


ヨルのまなざしが沈む。


「ひどすぎる……無理やり忘れさせるなんて」


ウィステリアの視線が、一つのログで止まった。


──ログ:抹消待ちエントリ

 【対象】カノン・シラトリ

 【職位】副主任研究員

 【状態】アクセス権限削除/存在ログ破棄処理中

 【関連】対人接触履歴:制限中

 【備考】可視性スコア:0(組織内検索に非表示)


「……花音」


レインが眉を寄せる。


「誰だ、それ?」


「たぶん……“消された”人。存在ごと、最初からいなかったみたいに」


「消された……存在ごと……? そんな……」


クロノが別スレッドを開く。


「時系列を突き合わせる。同時期に主任の記録が複数回“修復処理”……断続的に改ざん。……彼も書き換えられてる」


レインの口元がわずかに歪む。


「じゃあ――あいつ、加害者であり被害者ってわけかよ」


ウィステリアは静かに頷いた。


「……このログ、全部コピーして持ち帰る。“この場所”の存在そのものを、記憶に残すために」


クロノが実行を叩く。


──ミラー開始:全履歴/差分優先

──進捗:34%→67%→……

──妨害信号:微弱/無視


レインは入口で肩越しに問いを投げる。


「撤収ラインは?」


「完了しだい。痕跡は残す――“証拠”として」


ヨルは小さく頷き、もう一度ログの名を見つめた。

花音。そこに“いた”という事実の重さが、冷たい室内でだけ温度を持って響く。


外では、細い警報が続いている。

この瞬間、彼らは確かに“世界の嘘”に触れていた。怒りだけではない、失われた想いへの哀しみとともに。



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