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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
3章 『解体』
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【Scene07:綻び】



ウィステリアたちの足音が遠のく。

アリステアはその場に立ち尽くした。さっき投げかけられた言葉が、心の底のどこかをかすめていく。


「主任! 無事でしたか!」


白衣の若手――白川が駆け寄る。息は上がっているが、目は業務の手順に従っている。


「さっきの爆音……まさか侵入者なんて……主任、あれは本当に――」


言いかけた白川の視線が、廊下の奥へ滑る。

去り際のレインの背中。


「……先日の、国の視察の方……?」


ぽつりと落ちた一言に、アリステアのまぶたがわずかに揺れた。


「……視察?」


「ええ、先週いらしたじゃないですか。突然でしたけど、報告も――あれ?」


白川の表情が曇る。


「……おかしいな。主任、視察の件、覚えてません?」


胸の内側で、何かが引っかかった。


予定に視察はなかった。報告を確認した記憶もない。

なのに、白川は自然にそう言う。


──ログ:外部通達/種別:特例(該当記録なし)

──証言:白川/視察員来訪(先週)


アリステアは乾いた声で答える。


「……覚えていない、のかもしれない」


言いながら、自分の声色に自分で驚く。

襟元のチェーンが胸もとで触れ合い、一分遅れの壁時計が、正確に遅れたまま進む。


遠くで、彼らの足音はもう聞こえない。

それでも胸の奥で、小さな音が鳴った。


――今、ほどけた。



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