【Scene 04:沈黙の間《Grave Room》】
蹴り飛ばしたテーブルを戻しもせず、ウィステリアは煙草の火を指先で潰し、誰とも目を合わせずに歩き去った。
足音は**The Echo(記憶の残響)**の廊下へ吸い込まれていく。
最奥の金属扉を、ウィステリアは迷いなく蹴り開けた。
鋼板が低く唸り、室内の空気が揺れる。
そのまま迷いなく踏み込み、咥えた煙草に再び火を点ける。
「おいジジイ。仕事無いの? 暇すぎて死ぬ。」
部屋は暗い。
閉じられたカーテン、落とされた照明。
音すら沈む静謐。
中央には、かつて映写機が鎮座した台座。
今は分厚いガラスの卓となり、戦術マップが淡く浮かぶ。
硬質の椅子に身を預けたまま、グレイヴがわずかに視線を上げた。
語らずとも、空気が変わる。沈黙の王。
彼は無言で一枚のファイルを卓上へ滑らせる。
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コードネーム:《ゴースト》
所属:牙・他支部(識別未開示)
容疑:命令違反/敵組織《百目羅刹》との接触
指示:処分対象
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「……裏切り者の処理、ね」
ウィステリアの口元が、わずかに歪む。
「てっきりお流れかと思ってた。今さら掘り返すとは」
グレイヴの声は低く、淡々としていた。
「牙は残響を引きずらない。腐った果実は速やかに落とす。」
ウィステリアは煙を吐き、ファイルを取る。
「了解。《ゴースト》、消してくる。……せっかくだし、新しい毒でも使うかなぁ」
ご機嫌な足取りで背を向け、扉へ向かう──が、
「ウィステリア」
呼び止められ、うんざりした顔で振り返る。
「……あ? なに」
「しくじるなよ」
鼻で笑う。
「はぁ? しくじったとしても、私は拾われる前に、とっくに死んでる」
言い終えるや、入ってきた時よりも強く、扉を蹴り開けて出ていった。