表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
3章 『解体』
38/153

【Scene05:静寂の臨界】


ある日の夕刻。

窓の外は、紫がかった灰色に沈みはじめていた。

館内は変わらず白い光。空調の低い唸りだけが続く。


アリステアは端末に向かい、正確なリズムで記録処理を進める。

指は無駄なく動き、視線はブレない。感情というノイズは見当たらない。


ふと、隣の空席へ視線が流れる。

何も置かれていない、ただのスペース。


「……おつか──」


自然に口をついて出た言葉を、飲み込む。

──誰に? なぜ?

理由はわからない。ただ、そうすると落ち着く気がしただけだ。


壁時計は一分遅いまま、正確に遅れている。

襟元のチェーンが、胸もとで小さく触れ合った。


その瞬間──


──ドン。


建物の奥から、鈍い衝撃音。

空気が微かに揺れ、照明が一度だけチカつく。


アリステアは手を止め、眉をわずかに寄せて立ち上がる。

廊下の向こうで、ざわめきが連鎖する。


「……爆発音?」

「今の、実験予定にありましたっけ?」

「火災? でも警報は──鳴ってない……?」


非常灯がゆっくり点滅をはじめる。


──ログ:衝撃検知/レベル:低〜中

──アラーム:未作動/非常灯:点滅

──原因:不明


誰も「襲撃」とは言わない。

外敵に狙われる理由が、ここには“存在しない”はずだから。


白衣の研究員が駆け寄る。


「主任、大丈夫ですか。確認、されますか?」


アリステアは短く頷く。


「……まずは落ち着いて行動を」


視線は施設の奥へ。閉ざされた階層の、その向こう。

彼は一歩、廊下へ踏み出した。


「私が確認してくる」


足取りはいつもと同じに見えた。

だが、静寂は臨界を越えていた。


──この“日常”そのものが、嘘であることに。

彼は、まだ気づいていない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ