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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
3章 『解体』
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【Scene04:欠落】



午前十一時十七分。

記憶改編技術研究局/第三管理ラボ前の廊下。吸音床に一定のリズムで足音が落ちる。

端末は左手、右手は襟元のチェーンへ自然に触れていた。鎖骨の下で、銀の十字架の冷たさが小さく確かめられる。


──予定どおり。

今日もまた、同じ手順が積み重なる。


「主任、お疲れさまです。あの、今朝……国の視察員の方がいらしてまして」


足が止まる。空気の温度が半度だけ下がった気がした。


「……視察?」


「はい。今朝のスケジュールには見当たらなかったのですが、第二ラボの受付に『本省直轄の特例通達』が。現在は白川が応対中で、『視察対象の詳細は主任クラスへ報告を』とのことです」


アリステアは端末を一瞥する。どこにもない。

予定表は空白。通知履歴にも該当なし。


──ログ:外部通達/種別:特例/発信元:未記録

──受付:第二ラボ/承認:仮


「……我々の施設に、事前通達なしで“国”が?」


研究員は首肯した。笑顔は業務マニュアルどおりの角度だ。


「とても物腰の柔らかい方でした。念のため、入館は限定フロアで」


端末を閉じ、アリステアは息を整える。


「わかった。対応は白川に任せる。詳細は後で文書にして上げさせてくれ」


「承知しました!」


研究員が去る。白い廊下に空調の低い唸りだけが戻る。

壁時計は一分遅いまま、正確に遅れている。


襟元のチェーンが微かに揺れ、胸元で十字架が触れ合った。


「……リズムが、狂ったな」


独白は吸音に呑まれた。

歩き出す。足取りは変わらない。だが、均衡には細いひびが入った。


気づけるほどに、彼はまだ“目覚めて”いない。



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