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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
2章 『姉弟』
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【Scene13:獣】



「ヨル——————!!!!」


叫びが、監視フロアの空気を裂いた。

それは言葉ではない。怒りと焦燥と、断固たる意志が混じった“猛獣”の咆哮だった。


外扉の前でレインのブリーチが炸裂し、観測室の分厚い扉が内側へ弾ける。

煙の中、先陣で現れたのは黒い戦闘服のウィステリア。瞳に血のような怒りを宿す。


「お前……ヨルに何をした?」


低く、静かに。だが声には氷の殺気が滲む。

百目羅刹の操作官が狼狽し、数歩下がる。


「ッ……ば、バカな、どうしてここが──!」


背に並んだレインが口角をわずかに上げる。


「こちとら“匂い”でわかるんだよ。ヨルがどこで泣いてるか、な」


クロノは無言で操作卓へ走り、手を滑らせる。


「記録ログの消去はさせない。……情報はすべて回収する」


視線だけで指示が飛び、**《ファングス》**が散開した。


ウィステリアは答えず、観測窓の前へ。

その向こう、白い処理室でヨルが彼女を見ている。

破れた服。血のにじむ拳。けれど彼は、笑った。


「……姉さん、来たんだな」


ウィステリアの手がわずかに震える。恐れでも、迷いでもない。


「遅くなってごめん。…間に合って良かった…!」


ガラスに指を当て、静かに告げる。


「もう少しそこに居て。……今、片付ける」


振り向いた眼差しは、もう処刑人だった。

操作官が乾いた笑いをこぼす。


「……くく! そんなに大切か、“殺せない”弟が……!」


その言葉に、ウィステリアの目が細くなる。

次の瞬間、毒針が閃き、操作官の喉元を正確に射抜いた。


「──あの子は、お前が触れていいほど、汚れた存在じゃない」


針を静かに引き抜き、最後に告げる。


「……残念だったな。“姉”は、ここにいるよ」


操作官が崩れ落ちる。

ウィステリアは観測窓へ視線を戻し、ヨルに微かな笑みを返した。


「待たせたな、ヨル。……さあ、帰ろう」


非常警報に連動してロックが外れ、白い部屋の扉が開く。

ヨルがかすかに立ち上がり、崩れそうな身体で彼女へ笑いかけた。


「……姉さん、やっぱ……来てくれるって、信じてた」


ウィステリアは二歩、三歩と近づき、彼をそっと抱きとめる。

その胸に、温もりが戻っていった。


二人の間に、もう言葉はいらない。

──私は、お前の姉だから。

その誓いは、誰にも壊せない。



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