【Scene 03:牙の拠点にて】
「……はあ?」
ウィステリアはソファに足を投げ出し、煙草の火をトントンと灰皿に落とした。
昼下がりの拠点。
窓の向こうには細い雨──たいてい、雨。
高い天井、壁一面の情報モニターと拠点マップ。薄い橙を落とすステンドグラス。
火薬と甘い茶葉、タバコの匂いが混じる。
「おいヨル。誰が爆弾と一緒に冷蔵庫入れろっつった?」
ヨルはケラケラ笑い、スパイク付きのグローブを外して首を傾げた。
藍色の髪に、茜色の瞳。
末弟らしい無邪気さは、拾われた日から変わらない。
「だってほら、涼しいほうが機嫌いいかなって……」
「爆弾に感情ねぇよ」
「え、でも“私の子”とか言ってたじゃん……」
「それは毒の話だ、バカ」
作戦卓の脇では、クロノが黙って紅茶を注いでいた。
整えられた黒髪、黒ぶち眼鏡の奥に、計算の光。
カップを差し出しながら、小さく言う。
「……想定の範囲内だよ。毎朝の爆発は日課になってるから」
「おい日課にすんな」
「記録済み。レイン宛の報告書に追記しておくよ」
「──あー……また俺? 姫の育て方が悪いんじゃねぇの?」
ソファの端で髪をかき上げ、ゆるく笑ったのはレインだ。
外部調整役。
藤からグリーンへと流れる髪のグラデーションが揺れ、同じ色の瞳が愉快そうに細まる。
「…あぁ?! 喧嘩売ってんのか、レイン!!」
「はいはい。すみませんでした。お姫様?」
クロノは表情を変えずにカップを傾けた。
「すでに6件目。通報は保留してある」
「仕事しろッ!!」
ガン、とウィステリアがテーブルを蹴るように立ち上がる。
その背後で、ヨルの作りかけの“爆弾入りおにぎり”が、またひとつ転がった。
ファミリーはまだ少なかった。
ウィステリア、レイン、クロノ、ヨル──そして、沈黙のボス、グレイヴ。
だが、この四人の拠点こそが、世界を変える“最初の牙”だった。