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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
2章 『姉弟』
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【Scene09.5:着弾直前】



ブレーキ音すら抑えられた静寂のなか、牙の専用車両が滑るように停止した。

ドアロックの電子音。一拍遅れて、車内ランプが薄く灯る。低いエンジン音が落ち、代わりに外気の気配が耳へ染みる。


ウィステリアはゆっくりと腰を上げる。

左手が胸ポケットに触れる。──折れた小さなナイフの、確かな重み。


「……行くよ」


誰に向けるでもなく、誰よりも確かな声。


ドアが開き、夜気が流れ込む。湿ったコンクリートの匂い、遠いサイレン、街灯の軋む微音。

かつてショッピングモールだった跡地の搬入口前、舗装はひび割れ、フェンスがところどころ沈んでいる。


周囲の暗がりには、すでに(ファングス)の別働隊が散り、低い無線の囁きだけが浮き沈みする。北側では班毎に分かれた別支部の牙たちが影のように位置についた。


先に降りたクロノが車体の陰で周囲を確認し、手信号で“右クリア、前方注意”を示す。

レインは左手でナイフの重心を確かめ、喉元のリングペンダントを指で一度だけ弾いた。


ウィステリアは最後にスリングベルトのテンションを詰め、足音ひとつ立てずに地面へ降り立つ。

靴底が濡れた黒に触れ、体重が静かに沈む。呼吸を一度だけ整える。


視線の先、半ば錆びた地下鉄のサービスハッチ。

フェンスの切れ目、送風口から漏れる低い唸り、シャッターの隙間に転がる薬莢──街の死角に、人の手の痕跡だけが残っている。


──踏み出すその一歩に、迷いはない。


目の前にあるのは、

“家族を取り返す”という、ただ一つの目的だけ。


クロノが短くカウントを指で刻む。三、二、一──

ウィステリアが先頭、レインが右後方、クロノが背面支援。三角の陣形が、影のように動き出す。


そして、三人の影が夜の闇へと溶けていく。



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