表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
2章 『姉弟』
25/153

【Scene09:静寂の車内】



牙の専用車両が、深夜の都心を滑る。

窓の外を、廃墟化した高層ビル群が流れていく。

闇に、無数の街灯がうすく滲む。車内は低いエンジン音と空調のさざめきだけ。


後部シート。ウィステリアは背もたれに浅く腰をかけ、黙って外を見ていた。

顔を伏せず、目を逸らさず、焦点の合わない視線のまま──手袋の縁を、静かに指でなぞる。


隣で、レインがそっと口を開く。


「……何か言えって、迷ったけどよ」


沈黙。


「やっぱやめとく。“言葉で癒せる”段階は、とっくに過ぎてるもんな」


笑いにもならない独り言。

ウィステリアはふと窓から目を離し、彼を一瞥する。


「……話すなら、今のうち。突入後は全部“音”になる」


小さく苦笑して、レインが肩をすくめる。


「らしいな、“姫様”は」


「……その呼び方はやめて、あんたが言うと調子狂う」


返事はすぐには来ない。

数拍の静けさのあと、レインがぽつりと漏らす。


「……弟分ってのはな、いつの間にか、家族みたいなもんになるんだよ」


ウィステリアは黙っている。


「だから、あいつがいなくなって……お前が“あんな目”してたの、正直怖かった」


「……今も似たような目だけど。見てわかんない?」


「いや、今は違う。……ちゃんと、“前に進む奴の目”だ」


その言葉に、ウィステリアはわずかに目を細めた。

前方、運転席のクロノがミラー越しに告げる。


「……あと二分。着くぞ」


空気が切り替わる。

ウィステリアは小さく頷き、手袋を締め直す。毒針リングが、わずかに鳴った。

レインも腰のナイフに手を添え、最後にひと言。


「取り返そうぜ。“家族”なんだからよ」


冗談はなかった。

あるのは、戦う覚悟と、信じる意志だけ。


車内の空気が張り詰めていく。

やがて──目的地が、視界に入った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ