【Scene08:作戦会議・交差する視線】
**The Echo(記憶の残響)**の中枢──情報フロア。
青白いライトとホログラムの光が層をなし、戦術ホロマップが宙に立体投影されている。
主要メンバーが半円に並び、空気は静かに張り詰めていた。
中心に立つクロノが指を動かし、地図の一点を示す。
「……敵の逃走ルートは三つ。だが、気配が消えたのはこの地下鉄跡。恐らく、ここに百目羅刹の一時拠点がある」
ウィステリアは腕を組んだまま黙して立つ。
その目元に宿るのは、もはや怒りでも悲しみでもない──“焦燥を殺した静けさ”。
レインが横目で投影を眺め、ぽつりと漏らす。
「……手際が良すぎた。元から“奪うこと”が目的だったんだろうな」
「おそらくは。あいつの能力、データからしても──《コピー》もしくは……《書き換え》に向いてる」
クロノの淡々とした言葉に、ウィステリアの指先で毒針リングがわずかに鳴った。
「……だからって、“おもちゃ”にされていい理由にはならない」
「誰もそんなこと言ってない」
レインが視線を受け止めたまま、間合いを詰めずに続ける。
「けど、お前……冷静じゃないまま突っ込むつもりか?」
ウィステリアは無言でレインを睨む。
それでも彼は一歩も引かない。
「お前が本気で怒ってるの、俺たちは知ってる。……でも、怒ってるだけじゃ助けられないだろ?」
「……レイン」
止めようとしたクロノに、レインは片手で合図を送る。
「違うんだよ、クロノ。俺が言いたいのは、怒りを止めろって話じゃない」
彼はウィステリアに正対した。
「お前のその“怒り”、ちゃんと力に変えてほしいんだ。……ヨルは、それを信じてる」
その言葉に、ウィステリアの肩がわずかに揺れる。
クロノはその変化を捉え、静かに告げた。
「《牙》はお前の判断に預ける。……次の行動を、決めろ」
数秒の沈黙。
「正面から行く。迷ってる暇はない。……全員、殺る」
レインとクロノが同時に彼女を見る。
「本気か?……いったん冷静に──」
「落ち着いてる。だからこそ、“今すぐ”行く」
その瞳には、もう迷いはなかった。




