【Scene22:屋上】
夜風が冷たかった。
屋上から見下ろせば、街の灯が点々と瞬き、遠くの通りからは歌声。
そして真下のロビーからは、慣れないクリスマスパーティのざわつきが届いてくる。
皿が触れ合う音、ヨルのはしゃぎ声、誰かの笑い。
それは確かに“家族”の音だった。
ウィステリアはフェンスに背を預け、吐息で白い靄を散らす。
隣ではレインが肘を手すりに預け、夜空を仰いでいる。
「……あの頃の俺さ。死ぬことしか考えてなかった」
呟く声は夜に溶け、乾いた笑みが添えられた。
「でも、結局お前に生かされた。……皮肉なもんだ」
ウィステリアは目を細め、視線を夜空へ投げる。
「私も同じだよ。生きる理由なんて、とっくに見失ってた」
吐息と沈黙が重なったあと、ウィステリアが小さく笑う。
「でもさ。変わらず命を雑に扱う同士なら──これからも、守り合えばいいんじゃない?」
その言葉に、レインの呼吸が一瞬止まる。
過去の雨音がかき消されるように、胸の奥で脈が強く鳴った。
「……そうだな」
返す声は、もう諦めを帯びていなかった。
見上げた夜空に、雨粒が舞い落ちる。
街灯の光を反射していたその雫は、ふと、白へと変わった。
「……雪、か」
レインは息を呑む。
初雪が肩に触れ、冷たさよりも、不思議な静けさを残していく。
濡れた手を伸ばし、拳を握った。
「《レイン》──悪くねぇ名前だ」
その呟きに、ウィステリアが口元を緩める。
遠くからまたロビーの笑い声が響く。
騒がしく、不器用で、けれど温かい音。
雪が降り積もる静けさと、下から届く家族のざわめきが重なり合う。
その二つに包まれながら、二人の沈黙は──確かに未来へと続いていた。
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いつもご覧いただきありがとうございます。
今まで毎日更新で来ておりましたが、一度ここで全文の見直し修整、新章執筆のためしばらく休憩をいただきます。




