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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
2章 『姉弟』
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【 Scene06:ただいまではなく、報告を】



粉塵がまだ宙に残り、耳の奥で残響が鳴っている。

視界は焦りと混乱に呑まれていた。目の前で、奪われた。護ると決めたその背中を、奪われた。

──止められなかった。


小さな通信音が鳴る。


『《クロノ》より通信。応答可能なら返答しろ』


「……応答中。《ウィステリア》」


『ヨルの反応が消えた。状況を伝えろ』


「……連れていかれた。地上側。……追えなかった」


数秒の静寂が、回線の向こうで沈む。


『残留反応は?』


「ない。……気配も消えた。閃光で目を潰された」


『……深追いはやめろ』


「は?」


苛立ちが、声の端ににじむ。


『奴らは、追ってくる前提で来てる。今追っても罠だ。……帰還しろ、《ウィステリア》』


「──お前、今、何つった」


『落ち着け。お前の感情が、今いちばん危ない。

追えなくても、“ヨルは生きてる”』


「……それ、何の根拠だよ……!」


『“殺す気なら即死させてる”。でも、奴らはヨルを“持ち去った”』


クロノの声は静かだ。だが、その裏に焦りが走っている。


『ここから先は、分析と捜索に切り替える。戻れ。お前まで囚われたら──終わりだ』


「……っ……クソ……っ……」


視界が揺れ、膝が砕ける。砕石に手をつき、拳を固く握る。

毒針の冷たい金属が皮膚に食い込み、それでも痛みは遠い。


それでも、立ち上がるしかない。


「……了解。《ウィステリア》、帰還する」


声はかすれていた。

だが背中には──火のように燃える怒りと、震える焦りが焼きついている。


はやく助ける。

ヨルが、壊される前に。



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