【 Scene06:ただいまではなく、報告を】
粉塵がまだ宙に残り、耳の奥で残響が鳴っている。
視界は焦りと混乱に呑まれていた。目の前で、奪われた。護ると決めたその背中を、奪われた。
──止められなかった。
小さな通信音が鳴る。
『《クロノ》より通信。応答可能なら返答しろ』
「……応答中。《ウィステリア》」
『ヨルの反応が消えた。状況を伝えろ』
「……連れていかれた。地上側。……追えなかった」
数秒の静寂が、回線の向こうで沈む。
『残留反応は?』
「ない。……気配も消えた。閃光で目を潰された」
『……深追いはやめろ』
「は?」
苛立ちが、声の端ににじむ。
『奴らは、追ってくる前提で来てる。今追っても罠だ。……帰還しろ、《ウィステリア》』
「──お前、今、何つった」
『落ち着け。お前の感情が、今いちばん危ない。
追えなくても、“ヨルは生きてる”』
「……それ、何の根拠だよ……!」
『“殺す気なら即死させてる”。でも、奴らはヨルを“持ち去った”』
クロノの声は静かだ。だが、その裏に焦りが走っている。
『ここから先は、分析と捜索に切り替える。戻れ。お前まで囚われたら──終わりだ』
「……っ……クソ……っ……」
視界が揺れ、膝が砕ける。砕石に手をつき、拳を固く握る。
毒針の冷たい金属が皮膚に食い込み、それでも痛みは遠い。
それでも、立ち上がるしかない。
「……了解。《ウィステリア》、帰還する」
声はかすれていた。
だが背中には──火のように燃える怒りと、震える焦りが焼きついている。
はやく助ける。
ヨルが、壊される前に。




