【Scene04.5:観測者の瞳】
**The Echo(記憶の残響)**の中枢、情報フロア。
ロビーと戦術エリアをつなぐ監視モニター群の前で、クロノは静かに紅茶を啜っていた。
ホログラムの光が手元を淡く照らし、複数のウィンドウが指先の動きに従って滑る。
視線は、物資室のカメラに映るヨルへ固定されている。
金属棚の端、装備を前にして立ち尽くす青年の背中。肩がわずかに震えていた。
(………震えてるな。)
臆病ではない。迷いと、それを飲み込もうとする“覚悟”の揺れだ。
(まだ誰も殺してない。それなのに、今のアイツは──誰より行きたがってる)
ヨルは、牙の中でも異質だった。
殺意より先に、信頼で動こうとする。
本来それは“牙”に最も向かない在り方のはず──だが。
「……あいつ、あの人のことだけは、ずっと信じてるんだよな」
クロノは別のフィードを呼び出す。
裏手の出撃口近く、ベンチに座るウィステリア。
指輪を弄び、煙を吐く。
空気がひと筋、鋭くなる。
(牙の毒。処刑人。誰も寄せつけない鋭さ。……けど)
ヨルだけは、まっすぐに彼女の背を追っている。
そしてそれを、ウィステリアも──
(たぶん、捨てきれてない)
小さくため息。カップを置き、クロノはモニターの一つに触れてログを切った。
「無事に帰れよ。めんどくさい姉弟だな、ほんと……」
その声には、わずかに“願い”の温度が混じっていた。




