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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
8章『檻の中の焔』
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【Scene03:夜の支度】



装備庫の灯りは低く、温度だけがやわらかかった。

金属の匂い、オイルの線、乾いた布の手触り──ここは、戦いに出る前の“家の台所”みたいな場所だ。


「前衛は俺とウィステリア。開口はヨル、後衛制圧と救護は咲間」

レインが短く確認すると、咲間が頷いて救急ポーチを肩に回す。


「突入信号は三短音。監視網が落ちるのは六十秒。戻りは東搬入路を逆走、クロノの誘導に乗る」

ウィステリアは手袋の面ファスナーを締め、最後に小さく深呼吸した。


ヨルは膝立ちで工具を並べ、簡易ヒンジカッターと無電起爆の小型パックをケースに収める。

「……よし、鳴らさず開けるの、まかせて」


「過信は禁物。けど、信頼してます」

咲間がやわらかく笑って、ヨルの肩紐を一段短く整えた。


「糖分、切らすな」

アリステアが無言でチョコを三つ、ヨルのポケットに滑り込ませる。

「はは、了解。帰ったらちゃんと返す」


「返さなくていい。戻ってきた顔を見せてくれれば。」

アリステアの言葉に、ヨルは照れたように頷いた。


装備庫の入り口で、ミトが小さく立っていた。

ブランケットの端を指でつまみ、そっとヨルのもとへ来る。


「……これ、リボン。ほどけない結びかた、教えてもらった」

差し出されたのは、金木犀の色の細い紐。ヨルは笑って、起爆ポーチのタグに結んだ。


「ありがと。これ、帰り道の目印にする」

「……うん。ぜったい、ほどけない」


ふたりのやりとりを見て、レインが視線だけで「行くぞ」と告げる。

クロノの声がイヤピースに落ちた。

「到着次第、外周カメラ、ジャミング開始。搬入路までの誘導、点灯」


縁がウィステリアに近づき、掌に薄い金属片を置く。

「旧式のアナログキー。電子錠が拗ねたら噛ませろ。……帰りの分も残しとけよ」


「借りるだけ。必ず返す」

ウィステリアが短く答えると、縁は視線を逸らして柱にもたれた。


ボスが最後に扉脇で言葉を落とす。

「合図は俺が聞く。戻りの先頭はミトの寝顔だ。忘れるな」


「了解」

四つの声が重なる。


ヨルが一拍遅れて、ウィステリアの横に並んだ。

「……今度は、俺が守るよ。姉さん」


「じゃあ、私も守らせて。……うちの牙だろ」

短いやりとりに、咲間が目を細め、レインが口元でだけ笑った。


扉が開く。

夜の匂いが流れ込む。

家の温度を背に、四つの影が静かに溶け出した。



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