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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
6章『邂逅』
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【Scene 20:言葉】



静かな夕暮れだった。

牙の拠点の屋上を抜ける風が、鉄と油と、微かに煙草の匂いを運んでくる。


縁は、錆びた手すりに背を預けて空を見ていた。

見慣れていたはずの空は、七年ぶりとなれば、少し遠い。


「──探した。ここにいたか」


肩越しの声に、縁は目だけで振り返る。クロノだった。

手には煙草の箱。けれど、火はついていない。


「記録屋ってのは、こういう瞬間も記録すんのか?」


「さあな。でも、忘れないようにとは思った」


ふたりは並んだ。気まずさはもうない。

それでも、選ぶ言葉は丁寧だった。


「七年前、あの時……お前の言葉、ちゃんと聞いてりゃよかった」


「聞かなくてよかったよ。止められてたら、お前まで巻き込んだ」


「……それでも」


クロノの声がかすれる。もう泣く顔じゃない。

悔しさも後悔も痛みも抱えたまま、それでも立っている“仲間”の顔だった。


しばらく風の音だけが続いたのち、クロノが小さく息を吐く。


「──戻ってきてくれて、ありがとう。家族として」


縁は静かに目を閉じ、短く、確かに答える。


「……ただいま」


未点火の煙草の箱を、クロノがポケットにしまう。

その仕草が「もう十分だ」と告げる合図のように見えた。


藍へ溶けていく空の下、肩が触れるか触れないかの距離で立つふたり。

今度こそ、もう失くさないために。


牙という家族の中で、ふたりはふたたび、同じ風を吸い込んだ。



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