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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
6章『邂逅』
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【Scene09:Echo】


街のざわめきが届かない地下通路。

黄ばんだ蛍光灯が濡れた壁を鈍く撫でる。

ジンはコンクリの柱に肩を預け、片耳のレシーバーを軽く指で押さえた。


「……行ったか」


返答はない。無音の了承。

相手はクロノだ。


「やれやれ。いつもワンテンポ遅ぇんだよ、お前らは」


タバコを咥え、火は点けないまま歯で転がす。

白い息が、灯りの下でゆっくり千切れた。


──縁が、生きている。

それをジンは、ずっと前から知っていた。

知ったうえで、黙っていた。

牙がこの“亡霊”を受け止められる日が来るまで、口を閉ざすのが正しいと信じて。


正しかったのかどうかは、今でもわからない。


「……このまま、誰にも思い出されずに消えてりゃ、楽だったのにな、縁」


苦く笑い、通話端末をポケットへ落とす。

立ち上がる足取りは、いつもよりわずかに重い。


かつての仲間を“もう一度、殺しに行く”。

その現実を知った瞬間、ジンは言葉を失った。

自分の沈黙が、彼女の刃を少しだけ鋭くしてしまった気がして。


それでも、背中を押したのはクロノだった。


──「お前にしか言えないことが、あるだろ」


記録屋にしては不器用な、願いの混じった声色。

ジンは小さく舌打ちし、笑いに紛らせる。


「……ったく。お人好し、感染るんだな」


音の切れたイヤホンを片耳に差したまま、歩き出す。

足音が低く地下に反響し、昔日の気配を呼び起こす。


ひとつ、またひとつ──亡霊の残響を踏みしめるように。


ジンもまた、自分の“過去”へ向けて、歩を進めた。



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