08 見え方 捉え方
マネージャーの遠藤さんの運転する車の中で、助手席にいるあたしはラフな格好。ほぼ変装中のままの姿で、このあいだの夜のことを打ち明けることにした。
外の動く景色を見ながら――
「ちあちゃんと付き合うことになったから」
「……そーなの?」
「そうなの」
「ちあちゃんって、あの、男装カフェの女の子、だよな?」
「うん。まあ、普通の女の子じゃなかったんだけどね」
「それどういう意味?」
「誰にも言わないなら……まあ、あたしの秘密も誰にも言わないか」
「睦月ちゃんのためになるならな、まぁ言わないよ」
「……男のアレが生えてた」
「ぶっ!……お、男だったってこと…?」
「違うよ、STEOPで。影響でそうなったってこと、あたしみたいに」
「な、なるほど……」
車が停まった。道の端に。
話に集中するためか、遠藤さんは、上半身を少しこちらに向けた。
「やっ……やったのか?」
「何を?」
「だからつまり……避妊はしたのか?」
「バカ! バカじゃないの? やっ……てるワケないじゃん! もぉ、なんなの最初っから!」
「それってつまりそういうのは――」
「まだ! まだまだだから! もう……ホントにまだ。今後。でもちゃんとできるから」
「ならいいが」
「もぉ~……」
ちょっとデリカシーが……と思ったけれど、仕方ないのかな、重要なことではある。まだまったくそんな気はないけど。というかやっぱり言い方ってものがある。
そんなこんなで向かった先での撮影は、いつも以上にうまくいった。カメラマンさんも驚いたみたいで――
「なに、なに? むつきちゃん、こんなに凄いなんてビックリだけど?」
「どうもありがとうございます」
「…今後、プライベートで会えないかな」
「えっ?」
急なことでドキッとしてしまった。もしかして惚れられた? 真剣な眼差しにもドキッ。
このカメラマンさんは男性だ。あたしを見下ろして紳士的に言葉を待っている。
酷い男ではないのならと――真剣に応じたいと思った。言葉を選ぶ。
「すみません、恋人とのプライベートがあるので…誤解されるようなことは避けたいんです。ごめんなさい」
「そっか……しっかりしてるな。分かった。真面目に応えてくれて、ありがとう」
「いえ」
カメラマンさんはしゅんとしたけど、まあ、しょうがないよね。
そんな――とある公園の現場で「きゃぁ~、石田むつきちゃんだ~」と手を振られることもしばしば。
ニッコリ笑って手を振り返すと、「はうん!」とか、「きゃわいい~」とか言われる。自分に自信が持てる、そういう瞬間でもある。
そんな時に、顔をしかめた通行人もいた。その顔がこちらに向けられていて……こちらが微笑みを見せたら、その通行人は向こうを向いてしまった。…ほかに、どうしたらよかったんだろう。