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05 約束2

 週末がやってきた。

 そしてあたしは、着るものに困っていた――というか迷っていた。女の姿になってからの友達との遊びの日。とはいえ石田(いしだ)むつきだとバレないように変装も必要。「あ、あの人見たことある」なんてのは願い下げだ。そのために、気合を入れはするけど一部隠さないといけないなんて。

 ――まず帽子でしょ。それから、ズボンにしようかな。すそを紐でしばるタイプで七分――日焼け止めを塗って……と。

 バッチリ決めた服で待ち合わせ。遊園地前。

 来たのは三人だった。

 千秋(ちあき)とセミロングとゆるふわショート。

「ごめんね、遊ぶことを言ったら、『私も!』って、高校の頃からの友達が」

「えー、本物だー!」セミロングが言った。

「ちょ、声大きい」

 と、あたしが口の前に立てた人差し指を持ってくると、ゆるふわショートもその動きをした。

「みんなに騒がれると遊び辛くなっちゃうね」

 とは、ゆるふわショートが言った。

 すると、セミロングが。

「だね。ふふ、こんなの初めてでワクワクしちゃう」

「私、美弥(みや)」とセミロングが言うと、ゆるふわショートも。

「アタシは明日実(あすみ)

 四人での遊園地となった。

新ヶ木市(にいがきし)の遊園地、初めて」

 入りながら、あたしがそう言うと。

「私達はもう何度目かなあ、みんな初めてではないよね」

「そうだね」

 とのことで、初なのはあたしだけらしい。

 千秋とその友達は割と身長が高い。一目でそう思った。

 あたしは低身長モデル。四人の中でも一番低い。綺麗だとか言われる感じじゃなく「可愛い~!」という感じで愛でられている。正直……めちゃくちゃ嬉しい。

 ただ、あんまり慣れていないあたしは、すぐに照れてしまう。真剣な時や緊張している時は無表情になりがちだけれど、それをほころばせ、口元を緩ませてもじもじしてしまう。

 美弥も明日実も、どっちかというとグイグイ行きそうな感じだ。

 逆に千秋は、男装カフェにいたけれど、今はそれを感じさせない愛らしい服装と髪型、メイクをしている。筋肉を隠すように着た服だから愛らしさの方が今は目立っている。

「ね、むーちゃんって呼んでいい?」

 と千秋が言った。もじもじとしていた。それも愛らしい。

「いいよ。じゃあさ、あたしも…ちあちゃんって呼んでいい? 二人も、みーちゃんにあーちゃん」

「いいよ!」

 二人ともそれでいいらしいけど、みーちゃんの方から「ぐふっ」という声が聞こえたのは多分気のせいじゃない。どういう感情だったんだろう。


 ちあちゃんとあーちゃんは乗り物系が好きらしい。みーちゃんはグッズにこだわりがあるらしい。

 あたしはというと、可愛いグッズには興味があって、乗り物も少し。半々って感じだ。

 フードエリアで昼食を頂いていた時に、

「高校時代の千秋はバレー部だったんだよ」

 と、あーちゃんが言った。

「へえ~」

 その話の続きによると、みーちゃんは漫画同好会、あーちゃんはバスケ部という事だった。あたしは帰宅部。

「こっちに来てからの、高校からの友達なんだよね」

 ちあちゃんがそう言った。…なんだかうらやましい。

 昼ご飯を食べ終えてからも遊んだ。

 いつの間にか夕方になっていた。

 ――本当にあっという間。楽しい時間。自分でここまで体感できるなんてなあ…。

 最後に一番奥から一番手前(遊園地入口前)まで移動できるゴンドラにふたりずつで乗った時、赤く照らされたちあちゃんが、ほんのり薄暗い唇を動かした。

「今日……めちゃくちゃ楽しかった。それに嬉しかった。服の参考にしてるあこがれの女性と遊べるなんて……思ってもいなかったし」

「うぇ、や…そ、そう?」

「うん」

 照れてしまう。だったらと、あたしも照れさせ返し。

「あたしは服とか商品を宣伝してるだけだよ。あたしも、命の恩人とこんな風に遊べるなんて思ってもいなかった」

「そ、そうなんだ…?」

「うん」

 うまくハマったみたい。

 はにかむちあちゃんから、また声が。

「運命的だね」

 だからあたしも。

「うん。こんな嬉しい日は…初めて」

 きっと、夕日に照らされたあたしの顔は、喜びいっぱいという風ではない。初めてな理由を連想してしまったから。そんな顔をしてしまってから、気を遣わせてもなと思った。

「本当に楽しかった!」

 にっこりと笑う。……うまくできたと思う。

 ちあちゃんは、そんなあたしに大きく笑い返した。

 遊園地入口前で止まったゴンドラから降りてからは、そのゴンドラが別の客を乗せて園内の一番奥へと向かうのをある程度見送った。

 次のゴンドラから降りてきたみーちゃんとあーちゃんと一緒に、丘になった所から階段を下りていく。もうこの園を出る雰囲気だ。

 その時だ。

 もう下り切ったと思って一段踏み外した。

「やっ……!」

 つい高い声が。

 そこへ腕が伸びた。ちあちゃんの腕だった。

 ガッシリ支えられて――

「大丈夫?」

 耳元で、意外と低い声でちあちゃんにそう言われると、なぜだか体がビクっとして、心臓の鼓動も強く感じられた。

「だ…大丈夫っ」

 あたしがしがみ付いて足場を確保すると、ちあちゃんが急いであたしを押しはがした。

「えっ……」

 今のは何? と思った。だって、密着を嫌がったように見えたから。

 園を出たら、

「楽しかったね」

 と、話し合って別れた。

 笑顔で別れることができた。できたんだよ。だから――何か引っかかるのは…気のせいだよね。

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