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04 約束

 日本の純粋な技術とSTEOP(スティープ)能力とで、この、新ヶ木島(にいがきじま)はできている。

 そんな人工島の新ヶ木島は意外と広大で、ここだけでもかなりの仕事がある。

 川のせせらぎで癒されるようなスポットも沢山だ。そんな水音を聞きながら、ただただ待つ――こんな時間も好きだ。

 今はもう撮影も終わっていて、バスの中で着替えも済ませていた。ちゃっかり好きな服は紙袋で頂いた。

 横にはまだマネージャーの遠藤(えんどう)さんの姿が。

 川沿いのカフェの野外テーブルに着き、紅茶を一口。

 そんな時。

「あの…お、お、お待たせしましま…した」

 男装を解いた女性がそう言って、恥ずかしそうにした。

「私に用って…なんなんですか?」

 あたしは深く呼吸をして、気分を落ち着かせた。そしてゆったりと。

「この間はありがとう。今回も。助けてくれて」

「……そんな、当然のことをしただけで…」

 長身の人が、そう言ってあたしを見下ろし、照れ顔を見せている。とても好印象で、こちらにまで笑みが伝染する。そんな彼女の顔が急に真剣な顔になると。

「あれから大丈夫でした?」

「ああ、まあ…とりあえずは。大丈夫」

 思い出してしまったけれど。大丈夫。

「そっか…よかった…」

 と、彼女が本心で言っているように、あたしには聞こえた。その心のこもり方が、好きだなと思えた。

 あたしも本心からの言葉を届けたいと思った。丸ごと、気持ちそのものの言葉を。

「あたし、あなたと友達になりたい。ならせてください」

 あたしがそう言って手を差し出すと。

「こ、こここ、こちらこそ喜んで!」

 彼女も手を差し出してきた。ぎこちなく握手。彼女の手の方が大きかった。

 思わず笑みがこぼれそうになる。と、彼女の方から「はぁんっ」という声が聞こえた気がした。


 友達ができた。純粋にとても嬉しい。ルンルン気分になるほど。

 連絡先を教え合って、名前を知った。

 高赤(たからか)千秋(ちあき)。あたしがこの姿になってからの――仕事仲間以外の知人――友達第一号だ。

「今度いつ会えるかなぁ……」

 自然とほかにも友達ができたらいいな…と思いながらの日々が過ぎた。

 休みが重なったら、一緒に遊ぶつもりだ。それまで仕事。

 仕事上でも友達ができたら、もっといいかも。でも、本当にそうなりたい人じゃないと嫌だ、なあなあで増やしたくない。

 やり取りの様子を見ていた遠藤(えんどう)さん、微笑んでくれていた。見守ってくれている――そう思えた。


「次、いつ会える? バイトとか、外せないことはどれだけあるのか――」

 と、仕事の合間に、電話であたしが聞くと、千秋が。

「夕方からならいつでも。あと土日はほとんどシフトを入れてないから――」

 週末なら合わせやすそうだ。今からウキウキが止まらない。こうなってから初めての友達。

 ――近所の人とも友達になれればとは思うけど…きっかけ作り、難しそう…。

 仕事仲間とも友好関係を築ければ――と思いながらの今日は、本土での撮影だった。

 ふとした時、カメラマンさんが言った。

「次の撮影で誰を使うか考えたいから――」

 ここはどうやら見せ所だ。まあいつもそうだけど。

 トイレ休憩のあと、とある階段をのぼってスタッフの元へ行こうとする途中、上から土が降ってきた。

 土汚れが衣装に付いてしまったけど、この程度ならどうという事はない。汚れはSTEOP(スティープ)で消えた。

 ただ、どうしても思ってしまう。

 ――なんで土が降ってきた?

 誰かに上から掛けられた、という可能性は確かに過ぎった。でも犯人捜しはしなかった。結局「自分」を出し切ることの方が先決。

 集中してカメラの前に立った。

 自分の仕事は順調だったけれど、別のとあるモデルは調子が悪そうだった。まあそんなこともある。魅力的に撮れた時に、

「今のよかったね!」

 と、あたしが言うと、彼女は顔を歪ませた。

 ある時、彼女があたしに向かって深くお辞儀をした。あまり周囲の目がない時だった。

「ごべんなさいっ!」

 どうやら、彼女が、花壇の土を階段の下へと投げたらしい。

「もうやらないんなら、いいんじゃない?」

 と、言っておいた……けど、それだけじゃ足りない気がして、あとから付け足した。

「あたしは大丈夫だから怒らないけど、人によっては怒るよね、普通にやっちゃダメではあるし。汚い手を使っちゃダメだよ」

「はい…! ごめんなさい……!」

 あたしは、どうしてか、その子が苦手だった。けど、

「よしよし、あんなことはもう二度としないこと」

 と、あたしが彼女のおでこをポンポンとすると、彼女は、目を輝かせてあたしを見た。

 ――あれ? 好かれた? 変な子に好かれちゃったかも…。

 とはいえ、大事にならずに済んでよかった。好かれるのはいいことだし。嫌われるよりは――……って、当たり前だけど。

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