18 水族館にて
ある日――水族館デートをしている最中に、事は起こった。
西暦2500年の人工島の新ヶ木島、新ヶ木市の水族館は、社会科見学や修学旅行候補地として有名になっていた。だからか本土からも来る者は多く――その中の、誰かが、こんな声をこぼした。
「お姉ちゃん……?」
声の方を見た。
あたしが見知らぬ人が言ったらしい。
ちあちゃんは、その人物を見ると、なぜかその人物に向け、声を出した。
「ナツミ」
――え?
最初は戸惑った。よくよく話を聴くと――
「妹なんだよ」
思えば、ちあちゃんは、名前が千秋で、ナツミと呼ばれたこの人物は夏に関係してそうだった。合点がいった。
ちあちゃんの妹は、高校の制服を着ているように見える。もしかしたら中学かも。
「やっぱりそうだ。ねえ、その人が恋人のむーちゃんさん?」
ナツミちゃんに言われたから、あたしは自分から。
「はじめまして。睦月です。よろしくね」
「恋人ってことはさぁ……もうしたの?」
唐突な質問のせいで、あたしの顔が熱くなるのが分かった。
「ま……! まだ……っ」
全身が急に熱を帯びた。口も重たくなる。その先を言えない。
「ナツミ、直接的すぎ」
「ごめんごめん」
「修学旅行?」
「うん」
ふたりのやり取りを聞いていて、心が落ち着くかと思いきや、そうでもなかった。まだ全身が熱い。
「可愛い人だね」
「でしょ。もったいないよね、私なんかに」
ちあちゃんは、笑ってナツミちゃんを見てからあたしを見た。その顔は照れているように見えたけれど、どうだったんだろう。
「ふっ、あっついあっつい、ごちそう様。じゃ、またね」
「ん、ナツミも楽しんで」
ナツミちゃんが学生の群れに合流するのを見送ると、やっと熱が冷めてきた。
初めて見たちあちゃんの妹も――ちあちゃんほどではないけれど――背が高く、スラリとしていた。ショートボブといった髪型で、ちあちゃんよりはガーリッシュさがあった。
それはさておき。
「ちあちゃんは――」
「ん?」
「私なんか、じゃないよ。ちあちゃんだから、あたしは好き」
「……ありがと」
ちあちゃんの腕に掛けた手に、服越しに伝わる熱がある。もっと引っ付いてしまえ。えいっ。その温かさを、あたしは、シッカリと感じた。
そんな時だった。
「その子盗撮犯~! 捕まえて~!」
従業員に追われる男を目撃した。あたし達ふたりで通せんぼする。と――男はあたしに向かって突進してきた。そしてぶつかった。押し飛ばされたあたしは出口から出た所にある座ってくつろげそうな段差を越え、池に落ちてしまった。
そこから這い出た頃には、男は捕まっていて――それは、ちあちゃんのおかげらしかった。ちあちゃんは礼を言われていた。
あたしがスカートなんかを絞っていると、礼を言われ終えたちあちゃんがこちらへとやって来て。
「濡れちゃったね」
「新品同様の状態に戻せるから、大丈夫」
自分のSTEOP能力で状態を戻すと、さっきの、濡れる前の状態に。
「お~」
と、ちあちゃんが言った時だった――ふっ……と、あたしの目の前が真っ暗になったのは。