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16 救いの手

 302号室は、あたしの部屋からは遠い。だからか、村田(むらた)さんがどんな人かをあたしは知らない。

 ――そういえばなんで彼はあたしの電話番号を――。

 同じマンションだし、そんなこともあるか……と思ってからは、そのことを考えるのをやめた。

 その302号室の、リビングの中で、ソファーに座り、ボーッとしたまま、ただパーティの光景を眺めた。

 村田さんは、あたしを含め、八人をパーティに呼んでいたらしい。

 あたしは眼鏡をしていて、今は、二つ結びの髪両方を胸の前へと垂らしている。そんなあたしに声が掛かった。

「やぁ、食べてくれた?」

「最初に一個だけ」

 と、指でも示してみた。

「ちょっと見せたい物があるんだよ。こっち。来て」

 何だろうと思いながらついて行く。

 そうして入った部屋の壁には、水鉄砲のような銃や軍が使いそうな銃が飾られていた。

「サバイバルゲームなんかをよくやるんだ、たまにはいい息抜きになるんだよ」

 ――そういう人なんだ。

 思ったその時、ドアの方からガチャリという音がした。

「言っておくけど、叫んでもムダだよ、この部屋の中の音も振動も、全部の波が外には伝わらない」

 ふと、あたしをクラブに連れて行った男を思い出した。

 ――ああ、そういう人だったんだな……。

 あたしはベッドに押し倒された。

 力は村田の方が上。抵抗しようとはしたけど、ムリだった。

 ――殺される?……嫌だ……そんなの嫌。こんなのは望んでない。こんなのは……。

 思ってからすぐには悲鳴が出なかった。怖さで口も喉も動かなかった。

 数秒が経ってからやっと――

 ただただ叫んだ。長く、長く。

 だけど、それは誰にも届いていないようで、外の様子は変わらなかった。駆け付ける足音もない。

 村田はあたしの服をめくり上げたり、胸を揉んだりした。

 ……もう、声を上げる気も失せていた。

 あたしは無表情。こんな男たちは消えればいいと思った。

 そして死にたくなった。

 あたしの人生はこんなもの。この状況でというのは最悪で、憤りしかないけど。でも。

 ――もういい。もういいよ。

 そんな時だ。

 壁か何か――多分ドア――が激しく叩かれる音がして、それから壊れたらしいドアが、開かれた。

 入ってきたのは、ちあちゃんと、みーちゃんと、あーちゃんだった。

 足音は少しばかり聞こえていた。この部屋の内側から外へはダメでも、外から内へは音の波もやってくる、きっとそんな状態にするのが、村田のSTEOP(スティープ)能力なんだろう。

 それを利用してあたしを襲った村田は、たった今、ちあちゃんが念じたのであろう赤い殺虫剤のスプレー缶で殴られ、ベッドの脇に倒れた。

 あたしはベッドで身を起こして、服を整えた。そして質問を声にした。

「なんで?……なんで分かったの? なんで来れたの? なんでちあちゃん達なの……?」

「脅迫状が届いてたの。別れろって書かれてた」

「――! それで……」

「うん。で、みーちゃんはニオイを嗅ぎ分けることができるの。だから……ひとまず脅迫に乗ったフリをして辿ったワケ」

 そのちあちゃんの言葉を最後まで聞いたら、切なさが込み上げるのとともに、視界がぼやけた。

「じゃ、じゃあ……あれは、脅されてたからなの? 別れるって――」

「そう。そうだよ」

「じゃあ……あたし……あたし、ちあちゃんと一緒にいてもいいの?」

「うん。……ごめんね。しばらく不安にさせたよね」

 そう言うちあちゃんとあたしが抱き合うのを見ていたからか、みーちゃんの方からも声が聞こえた。

「よかったぁ」

「これで解決かな」

 と言ったのはあーちゃんだった。

「脅迫状のニオイは村田のだったよ」

 と、みーちゃんが言った。

 誰が呼んだのか、警察が来て、STEOP(スティープ)による事件として取り扱われ、村田は逮捕された。

 事情を聴取されたあと、自分の部屋に戻った。ひとりでではなく、友達二人と恋人のちあちゃん、計三人を連れて――。

「どうなるかと思った」などと話されてからは、世間話をして、気を紛らわせた。怖さと心細さがまだあったから――。

 数十分は話したあとで、みーちゃんとあーちゃんは、あたしの部屋を去った。

 リビングのテーブルを前にして、ちあちゃんとあたしは、ふたりだけ。

 そうなってから、ふたり横に並ぶように――あたしからちあちゃんの左隣に移動した。

 その腕にしがみ付いて、あたしは決めた。

「もう離れない。離さないからね、絶対ダメだよ。あんなこともう言っちゃダメ」

「……うん……分かった。私も離さない。ずっと一緒だよ」

 ちあちゃんはそう言うと、まぶたを閉じて安心を噛み締めていたあたしの頬に、キスをした。

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