13 宿と空
宿付属の和菓子作り体験の部屋。
体験のためのテーブルの前にふたりで並んで座った。左にちあちゃん、右にあたし。
さっきの出来事のせいで、あたし自身の不安が抜け切れなくて、ちあちゃんの左手とあたしの右手で、今は手をつないでいる。
教わるままに「さあ始めよう」という流れになるけれど。
「むーちゃん? ほら……手、離さないとやりにくいよ?……このままだと無~茶~んだよ?」
「……ふふ、何それ」
気持ちが沈んでいたけれど、笑わされて、それが今は心地いい。
和菓子作りは大成功で、面白かった。全行程をしたワケではないけれど。味のする飾りを見て楽しめて、しかもそれを作れて、そして口の中で噛み締めた。
幸せな気分になる味。ホッとする味。ふたりして「美味しいね」と、笑顔を向け合った。
体験の部屋を出ると、ちあちゃんと腕を組んで三乃花の部屋へと向かった。
料理はもう並んでいて、机からはいい匂いが漂っている。
「ん、これ美味しい」なんて語り合う時間は、すぐに過ぎ去った。楽し過ぎたのかも。
それから夜の風呂を堪能しようと思ったけれど、
「部屋のお風呂にしよっか。ふたりでゆっくり浸かりたいし」
と、あたしが言うと、ちあちゃんは一瞬、何か考え込んだあとのような顔をして、そしてそれをほころばせた。
「ありがとう、私のこと――」
「ん?……えっと、あたしがそうしたいから、いいんだよ? 気にしないでよ。ほら、お部屋のお風呂も凄いよ!」
戸を開け、外を見た。見上げると空が見えた。
辺りへも目を向けた。
木の湯舟と岩と水音もある。空気はかなり澄んでいる。
ふたりで浸かった。
その風呂は格別だった。
並んで夜空の星を見た。気持ちのいい時間。