僕の好物まんじゅうすべすべ蟹
平和で裕福な『スマイリー王国』では日々スマイルを国民に披露する為に、ロイヤルファミリーは城の奥でスマイルの鍛練に励んでいる。ロイヤルファミリー代々スマイルを欠かした事はなく、全員その課題をクリアしてきた。ところがだ、代々続いてきたスマイルに絶滅の危機が訪れていた。「王子!アクーラ王子!またですか!」スマイルのレッスンを受けるアクーラ王子は、講師のドレサから叱責されている。その理由は……。「ドレサ先生……やはり、僕はスマイルなど無理で御座います」アクーラ王子の体はプルプル震え、気持ちにゆとりが無い事が窺える。だがドレサは許さない。代々続いてきた掟をこの代で終わらせるなど、そんな不名誉があってはならない。「何故いつも笑顔を隠すのですか?」「何故と……言われましても、その理由は……お墓に持って行くつもり……でして」「折角ハンサム顔に生まれたのですから、笑顔でいればより印象が良くなりますのに」ドレサが笑顔のコツを指導しても、不思議な事にアクーラ王子は笑顔を揉み消そうとする。「こうなれば最終手段……優秀な魔法使いと呼ばれるルピア姫を御呼びし、王子に笑顔を伝授させるしかありません。「あ……ルピア姫と云いますとファンタジー王国の姫ぎみであり、同時に魔法使いでもあると云われる……」「そうで御座います。魔法の努力家で有名なルピア姫でしたら、王子を笑顔に出来るでしょう」アクーラ王子は困惑した様子を見せ、深刻な空気を放ち出した。相手が魔法の努力家で姫ともなれば、逃げ場はない。翌日、回避策が浮かばないまま、ルピア姫が呼ばれてしまった。「ファンタジー王国から参りました。ルピアで御座います」自ら『姫』と名乗らない所が国民から愛されている。「アクーラ王子に笑顔の御指導を宜しくお願い致します」「お任せ下さいませ」(ついに、来てしまった……)「つきましては、今宵の夕食会には姫も同席願います。メニューですが、姫様、何がお好きでしょうか?」「有り難き幸せです。僕の好きなメニューは……」ルピア姫は僕っ娘のようだ。「まんじゅうすべすべ蟹、で御座います」「ブハアッ!」突然アクーラ王子が吹き出した。「ヒャヒャヒャヒャヒャ!何その変な名前!」「「!」」アクーラ王子の笑いに、ドレサもルピア姫も目が点になる。「ヒャヒャヒャヒャヒャ……」(だ、だから……嫌だったんた!笑うの!)ハンサムな顔が台無し。アクーラ王子は笑うと、テングザルの様な容姿になってしまうらしい。「流石はルピア姫、魔法を使わず、王子を笑顔に出来ましたね……」「魔法なしで目的を果たした事は初めてで御座います」「ヒャヒャヒャヒャヒャ……!」アクーラ王子のあられもない不細工な笑いは、いつまでも続いたという。めでたしめでたし。