第8話 結婚式
翌日、わたしはメラニーから婚姻届に署名を貰った。
朝一番で婚約破棄届けと婚姻届を提出した。
「お嬢さん、婚約破棄ですね。おめでとうございます。それからこちらの方たちにもお祝いを」と係員にウインクされた。
わたしも「ありがとうございます」と返した。
本屋に寄って観光案内の本を買うとわたしは家に戻った。
もう婚約者ではないわたしは、店に手伝いに行かなかった。部屋で編み物をそばに置いて本を読んでいると、メラニーが入って来た。
「それは結婚式の?」
「えぇ必要でしょ」と答えると
「よかった、姉さんに花嫁の喜びを与えられて、自分で編みたかったけど、ゆずってあげるね。せいぜい夢を見て」
そういうとわたしが悲しげな顔をするのをしっかり見てから部屋を出て行った。
一度、ショーンとメラニーがやって来て
「お姉さま、商会の仕事をしないのですか?」
「そうだぞ、従業員だろ」とか言うので
「どうして、他人のわたしが手伝うのですか?」と聞いた。
「従業員だろ」とショーンがまた言うので
「違います」と答えた。本を手に広げたまま煩わしいやつって態度をあからさまにして
「だから仕事をしろ」とショーンが言うので、本をバタンと閉じて
「わからない人ね。いやです。従業員じゃないですよ」と答えた。
「いつも働いていただろう」とショーンが言うと、ため息をついて大きく息を吸うと
「それは婚約者だからです。婚約者は家族と同じだから給料はなし。タダ働きしていました。これからはメラニーの仕事でしょ?メラニーはもう婚約者じゃなく妻ですね。婚姻届を提出しているから・・・こんなところでしゃべってないでさっさと仕事に戻ったらどうですか」と言うと立ち上がってドアに手をかけて二人が動くのを待った。
「無料」とメラニーとショーンはつぶやいた。
「婚約者は無給だけどデイジーとマギーは給料貰ってますね」と言うとメラニーとショーンは部屋を出て行った。
この後どうなったのだろうか?残念ながらわたしは知らない・・・
結婚式はお祖父様が亡くなって、三ヶ月後に執り行われた。喪が開けてないけどお祖父様の最後の望みだということにして執り行われた。子供が生まれちゃうからね
この三ヶ月いろいろあった。なぜか全員当ての遺言状がみつかり、それも別々に。その度にマーチンさんを呼んだり誰かが泣いたり喧嘩したり、とても結婚式なんてできないと思ったけどまぁ家族一丸で頑張っていました。
でもお祖父様はほんとにお茶目で、遺言状は日付はまちまちだったけど内容は一緒だった。
それはお祖父様が部屋に飾っていた美術品?と言っていいのか・・・まぁぼちぼち買い集めたものを譲るというもので、鑑定したり値段の違いで争ったり・・・
そういった落ち着かない変に忙しい三ヶ月で準備もしたんだもの。結婚式を楽しんでもいいよね。
わたしだってベールを編むなど、新婦の準備の手伝いをしたから。
おなかが大きくなる為、花嫁衣装は大きめに作って置き、式前にサイズ合わせをしてなんとかした。
会食の間、わたしはしっかり目立つように振舞った。なにもこそこそする必要はないから。
わたしが期待した通り、メラニーのベールは褒められた。鎖骨までを覆う少し灰色がかったベールは網目の細やかさと揃っていることを褒められていた。
わたしは自分の衣装も作った。花嫁衣装用の生地を水色に染めてドレスを作ったのだ。そして編んでいたベールをショールにして羽織った。
女性陣はわたしのショールに気づくと、そばに来てちょっと見せてとか話しかけて来たが、主役はわたしじゃないと承知しているので、失礼にならない程度の時間で切り上げて
「今度、お茶しましょう。連絡するわ」と言うとメラニーに祝いを述べに行った。
やがて、食事会が終わり、わたしは片付けを始めたが、普段は率先して動くところを誰かが指示してくれるのを待つことにした。
だってわたしはこの家の人じゃないから。
「なにをしたらいいですか?」これを言うのは四回目だ。
答えがなかったので
「することないなら帰りますね」と帰った。