第2話 お祖父様
お部屋に入るとお祖父様はいつものようにベッドに横になっていた。
待たせてしまったことを詫びながら浄化を使った。歩いてトイレに行けなくなったお祖父様だ。
わたしのわずかばかりの浄化が役に立つ。わたしの浄化はささやかな能力なので、お湯で体を拭く。
それから食事を済ませると室内を少し歩く。歩くと言っても体を支えて貰って足を動かすだけだ。この手伝いでわたしは腰が悪くなったが、医者からやるように言われているので休むことはできない。
ショーンかお義父様が、手伝ってくれるといいのだが二人とも仕事を口実にやらない。
少し前までは手伝いの女性がいたので、二人でなんとか出来ていたのだが、必要ないという意見が多くて断った。
顔も見せないシリウス家の面々がこう言ったのだ。
「わたしひとりでやれるよ。できないってことない」とデイジーが言えば
「ひとりで大丈夫でしょ。お祖父様は動けるし」とマギーが付け加え
「ほんとちゃんと見てればわかるよね」とデイジーが締めくくった。
いつもわたしに押し付けているくせに・・・・わたしは手伝いが必要だと言い続けたけど・・・だめだった。
手伝いのポリーは
「マリアさんにいいことがありますように」と言って去って行った。
「マリア、これを預けて置く。なにごともなかったら捨ててくれ。今まで通りでいいのなら。だけど踏みつけられたままじゃいやだと思ったら、これをマーチンの所に持って行け。いつでもいい。生きてりゃ百年後でもいい」とお祖父様から封筒を渡された。
「・・・・ありがとうございます」と素直に受け取った。これは保険だ。大抵の人間はこんなもの使わない。
「それからこれ、期限ぎりぎりだからすぐに・・・・明日遅く来ても大丈夫だから」って明日もわたしが来る前提?まぁ確かだけど。
受け取ったそれを見て首をかしげると
「それを見る人は少ないよ。当たりくじと言うやつだ。隣町でこっそり受け取ってここに入れて」と私名義の通帳もくれた。
残高がかなりある。
「マーチンに作って貰った。店の手伝いとわたしの世話に対するお礼だ。うまく使ってくれ・・・・ありがとうマリア」
翌日は当番のショーンのノックの前に部屋を出た。隣町に行って手続きを済ました。あたりくじの金額の多さに驚いた。
お祖父様のところへ行こうとするとショーンに呼び止められた。
「部屋にいなかったな?どこに行ってたんだ」
「用事で町へ」
「俺が忙しいのを知ってるだろ。代わって貰おうと思っていたのに・・・まぁ今からでも行け」と言い捨てると出かけて行った。
お祖父様はいつもの様にベッドにいたが、呼吸が荒かった。体をきれいにして
「手続きを済ませました。ありがとうございます」と言うとお祖父様は荒い息の中から
「良かった。もうすぐ終わる」と言って目をつぶった。
すぐに本宅に行ってお医者さんを呼ぶように、言った。
やってきたお医者さんに、みなが集まるようにと言われてシリウス夫妻とデイジーがやってきた。
「ご苦労様、マリア。後は家族で看るから、帰って」とシリウス夫人に部屋を出された。
そんなことだろう思っていたので、すぐにお暇した。門を出る所で戻って来たショーンと会ったが、
「マリア、帰るのか。薄情だな」と足も止めずに言って去って行った。
その様子を向かいの家のターナー夫人が見ていた。
「今日もマリアがお世話に来たね。この様子ならもうすぐ葬式だね」と独り言をいいながら、喪服をとりだしてブラシをかけ始めた。