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「この世界には、三つの世界線が存在する。一つは空の国、一つは海の国、そして地の国だ。我々が住んでいるこの世界は、海の国と呼ばれていて、我々のことは海の民と呼ぶ。空の国は、雲の遥か上に浮く国だ。そこに住まう空の民達は、“羽根”を駆使して生活をしている。それがないと生活に不自由というぐらい大事なものらしい。そして地の国に住まう地の民は、海より深い地中にあるとされている。暗闇に目が強い地の民は皆、地獄から舞い戻った鬼のようだとも云われているな」


「本当に、この空の上に空の国があるの? この地面の下に地の国があるの?」


「いや、それは定かにはなっていないが、おそらく私たちが空高く登ったところで空の国はないだろう。地の国も同様だ。地中を掘ったところで地の国には辿り着けない。それぞれはあくまで場所を指しているだけで同じ世界線には存在しないのだ」


()()()()()?」


「この世界には、いくつもの同時進行する世界があるという仮説が立てられている。例えば私が生きている世界と、瑚春が生きている世界は違うものだというものだ」


「なんで? 今目の前にいるじゃん」


「しかし、瑚春の目に映るものと私が見ているものは、別のものであろう。瑚春は私の表情を見て情報を処理しているが、わたしは頭にある知識を口にして瑚春に伝えている。決して同じ記憶を共有しているわけでもないんだよ」


「……よくわかんない」


「今はまだ、わからなくてよい。私たちはどう抗ったって海の国からは出られない。それぞれは別の世界にあるのだからな」




 長い夢を見ていた気がする。目を覚ましてから暫く頭が働かなかった。

 ぼーっとする視界がようやく鮮明になり、私は上体を起こして頭を動かした。

 どのくらい眠っていたのだろうか。ふかふかとした感触がまだ、背中に残っている。

 ログハウスのような壁模様。木の香りがほんのりとする。私が寝ていた部屋にはベッド以外に物はなく、斜めになった天井からして屋根裏部屋ということがわかった。

 左から差し込んでくる明かりが眩しい。大きな窓から茜色に染まった空が私を覗いていた。

 大きく深呼吸をして足を床に下ろす。

 確か、私はあの()()と部屋で話してて、…――。


「そうだ!」

 あいつは今どこだ!

 思いが先立ち、瑚春は不意に傷んだ鳩尾を抑えた。

 うまく立ち上がることができず床の上で派手に転ける。


「大丈夫ですか?」

「――?」


 顔を上げると、小さな可愛らしい女の子がドアの付近に立っていた。両手一杯に食べ物を抱え不思議な生き物を見るような目つきでこちらの様子を伺ってくる。

 私は言葉が出なかった。

 何故って?そりゃもちろん…――。


「…白い髪……、赤褐色色の肌……」


 私の独り言に対して、女の子は不思議そうに首を傾げる。くるくるとした小動物のような瞳と天然がかった白い髪。おじいちゃん達みたいな白い髪ではない。艶のある透明感あふれる髪だ。

 私はそっと手を伸ばした。びくりと女の子は固まる。一度躊躇して手を止めるが、そっとその髪に触れた。


「……あいつと一緒」


 サラサラして心地よかった。


「……そっか、私本当に空の国に来たのか……」


 私はゆっくり立ち上がって、ベッドへ戻った。実感はわかないが、やはり空の国に来てしまったのだ。


「ごめんなさい。ままがお姉さんを気絶させたの」


 女の子は申し訳なさそうに言葉を切る。抱えた食べ物をベッドサイドテーブルに置いた。美味しそう果実の香りが、鼻をくすぐる。


「わたしは、アイリアです。ままの名前はリア。ここはままの家だから安心して」


 私の知りたいことをハキハキと喋り出す女の子。随分としっかりした子だなと、感心した。

 ぐーとだらしがないくらい、お腹の音が鳴った。咄嗟にお腹を抑えるが、やはり鳩尾が傷んだ。

 きっとあざになっている。アイリアの母親が殴ったのか、知らないが、ずいぶん痛いげなことをしてくれる。

 あとで一発返そう。

 アイリアは小さなナイフを手にリンゴの皮を剥き出した。


「ままと、ヨナ王子は一階でおはなししてるんだ。わたしはお姉さんの様子を見ておいてって頼まれたの。はい」


「あ、ありがとう」


 手際がよく綺麗に斬られたリンゴを素直に受け取る。水々しい果実にかぶりつくと、想像通りの甘い果汁が口いっぱいに広がった。

「お姉さんの名前は?」とアイリアも口に果実を頬張りながら聞いてくる。


「瑚春」

「こある――?」

「違う、こ“は”る」


 “は”を発音できない彼女のために、わざとらしくゆっくり話すが、アイリアは首を傾げた。


「“あ”、じゃなくて“は”だよ」

「……こある」


 だめだ。

 私は潔く諦めて『こある』となることにした。


「お姉さんはほんとうに海の国から来たの?」

「そうねぇ。たぶん、そうなんだと思う」


 私は言葉を濁した。正直自分でもよくわかっていないからだ。自分の住んでいた世界が、実は『海の国』という名称で、今は『空の国』という得体もしれない地にいるとは………。


「ねえ、アイリア達はこの世界が『空の国』と『海の国』『地の国』でできてるって本当に信じているの?」


「うん。小さい頃から聞かされている話だし、みんな海にも地にもすっごく興味あるんだよ。お姉さんは海の国から来たんでしょ? どんな国なの? 海ってどんなもの? 色は? 味はする?」


 前のめりに聞いてくるアイリアの髪の毛がふわりと揺れる。


「ヨナ王子が帰ってきたことにはびっくりしたけど、私はお姉さんのことの方が興味あるの。髪の色も肌の色も瞳の色も全部違う。御伽話が目の前に現れたみたいな、ワクワクするの」


 子供の好奇心だろうか。

 アイリアは、弾むような言葉で私の方を見つめてくる。子犬と子供の相手は、体力を使うというが、確かにその通りだ。子供の無邪気さに頭の回転が間に合わない。

 大学は、追われるように生活していたつもりなのだが、もしかしたら怠惰な日々を過ごしていたのかもしれない。


「……まって。ヨナって誰?」


 さっきからアイリアが話していた“ヨナ”という単語を無視していたが、もしや…――。


「お姉さんと一緒にいた男の人だよ。空の国第三王子、ヨナ王子」

「っまじか……」


 あいつ、ヨナって名前だったのか。

 ズキズキと頭の奥が痛んできた。


「…ごめん、もうちょっと寝るね」

「うん。夜ご飯の時にまた様子見に来るね」といってアイリアは部屋を出て行った。


 物分かりの良い子。

 私はベッドに横になった。もう一度寝て、情報を処理しよう。

 私は吸い込まれるように深い眠りに落ちて行った。





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