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第10話 覚醒の気配


 地表が瞬く間に下界へと遠ざかり、山肌が接近する。

 空から慎重に接近して眺めると、龍の図体は山を呑みこむほど大きいと分かる。根っこ、つまり尻尾にあたる部分は頂上の霧に隠されて見えないが

 ――こんなのを間近で見たら、どんな人間でもパニックになって当然だろう。


 しかし俺たちの接近とほぼ同時に、8つの龍の頭も

 ――ぐるりとこちらへ向いた。


「巴君!」

「ちっ――!!」


 龍の銀の目玉がギロリと音をたてかねないほど、俺たちを睨む。

 16もの眼球が、全部。


 完全に気配を察知された

 ――と思った瞬間、空に伸ばされた龍の頭部のうち3つが、こちらに向けてぐわっと牙を剥いた。

 その喉の奥に見えるものは、エネルギーを強引に圧縮させたかのような光球。結構距離が離れていても、バチバチと音をたてているのが分かる。

 ――あんなもの、3ついっぺんに喰らったら!


「ヤッベ……!

 逃げるぞ、八重瀬!」

「う……うん!」


 空中で八重瀬をかばいながら、俺は自分の背中へ気合を送る。

 その瞬間、翼に装着されたミサイルポッドから雷の如き光が飛び出して、俺たち二人は一息にさらなる上空に飛んだ。龍より離れた、山の頂に向かって。

 ポッドから射出された雷光は俺たちから離れるや否や、スピードを保ったまま向きを変え、龍の方角へと向かっていく。

 ある程度、俺の意思に従い動いてくれる雷撃のミサイル――神器で使える技の一つだ。

 そのまま雷は龍に直撃、龍は撃沈する――と、思ったが。


「!?」


 龍が大きく口を開いたかと思うと、再び謎の耳鳴りが俺たちの脳をつんざいた。

 突風が吹きすさび、翼のコントロールすらままならなくなる。

 龍の喉から発射された光球が、無数の細かな弾丸に変化して俺たちに襲いかかってきた。


「なっ……!

 アレ、連射タイプかよ!?」


 そんなん聞いてない。しかも一発一発がレーザー並みの威力と速度で発射され、次々と俺の周囲をかすめてくる。それはまるで、光の嵐の如く。

 敏捷性には定評のある俺でも、避けるのが手一杯。さらに俺は八重瀬というハンデまで抱えているし!

 鋭い光の牙が後から後から俺たちを追ってくる。気がつくと翼にも俺の身体にも何発かギリギリのところで光が掠め、中には翼表面やワイシャツを切り裂いていくものまであった。


 そして、何十発目かの光弾を何とかかわしきったと思った、その刹那。


「ぐあ……っ!!?」


 八重瀬を抱えていた右腕に、強烈な熱さが走った。


「えっ――?

 巴君!」


 八重瀬の絶叫。

 熱さの直後に来る痛み。あまりの激痛に、俺は思わず翼のコントロールを失ってしまった。

 マズった。かわしたと思ったのに――



 勿論その後からも、龍の光弾は滝の如く俺たちに降りそそいでくる。攻撃をやめる気配がまるでない。

 右肩を見ると血まみれ。傷口からはぷすぷすと微かに焦げた臭いまでした。

 ――本当にまずい。このままじゃ!



 その瞬間、思わず目をつぶっていた。単純な恐怖で。

 殺される。何も出来ないまま、こんなわけの分からない島で、俺は

 ――でも。



「じ……

 神器変化・ディフェンスモード壱式――

 グレイス・オブ・ジアース!!」



 響いたものは、震えるような八重瀬の叫び。

 同時に見えたものは、燦然と煌めく――ヤツの身長を超えるほどの、両手大剣。

 いつもは殆ど扱えないはずの剣を、ヤツは抱えこむように両手で構えながら、必死に叫んでいた。

 その刃は月光を受け、何故かやたらと青く輝いている。刃の光は八重瀬の声と共に拡大し、一気に俺たちを包み込んでいた。

 俺たちを狙った全ての光弾は青い光に弾かれ、空中で消滅していく。


「な……何だ?

 八重瀬、お前……?」


 信じられない気分で、俺は茫然と状況を眺めるしかない。

 本人がろくにコントロール出来ない以上、無用の長物とばかり思っていた、八重瀬の大剣。刀のように鋭い煌めきも、斧ほどの重量感もない、昔のRPGの勇者がよく持っていた、子供の玩具みたいな剣。剣というより、やたら重いだけの鉄塊にしか見えなかった役立たず。

 それが、ここまでの威力を秘めていたなんて。

 俺の眼を潰さんばかりに、その刃は恐ろしい輝きを放っている。


「お前、どうして……?」

「僕にも分からない!

 とにかく逃げよう、巴君!!」


 言われるがままに、俺は八重瀬を抱えたまま翼を何とかコントロールしつつ、山の頂上へと向かった。

 見ると龍も――大剣の光から逃れるかのように全ての首を空中に伸ばし、咆哮していた。

 相変わらずその声は音としては聞こえず、ひどい耳鳴りとなって頭を引っ掻き回していたが

 ――それでも俺には分かった。これは、龍の悲鳴だと。


 だが、傷ついた俺の身体はうまいこと翼を操作できず、ろくに上昇しない。

 翼自体もさっきの攻撃で一部破損し、煙を噴いている。


 仕方なく俺たちは山の中腹あたり

 ――比較的高めの木々が鬱蒼と茂っているあたりを選び、盛大な土煙を巻き上げながら着地した。

 着地というより激突、墜落、爆発炎上と表現した方が正しいほどの勢いで。







「巴君!

 ――だ、大丈夫?」


 着地するなり、八重瀬を放り出してぶっ倒れてしまった俺。

 想像以上に右腕の負傷がキツイ。これまでは宣兄がいたから、すぐに治癒してもらったけど。


「み、見りゃ分かんだろ!

 大丈夫なわけ……」


 そんな憎まれ口を叩きながら、俺は八重瀬を振り返ったが

 ――思わず、言葉を失ってしまった。


 八重瀬のヤツは、俺以上にボロボロだったから。

 ほぼ全身を光弾が掠めたのか、頭から足まで煤けて真っ黒。背広もズボンも至るところ破けて肌が見えてるし、どこで被弾したのか左肩からは大量出血して袖まで血に染まっていた。

 眼鏡が無事なのが不思議すぎる。


 考えてみればコイツは、俺に不器用に抱えられて自分はほぼ身動きできないまま、あの光の嵐に襲われたんだ。

 俺は自分を守るのでさえ手一杯で、八重瀬にまでろくに気が回らなかった

 ――その結果がこれだ。


 ごめん――

 そう言いかけて、俺は唇を噛んだ。


「……ったく。

 そこそこ、うまく避けたつもりだったのによ……」


 俺の口から漏れたのは、謝罪でなく弁解の言葉。

 日頃から当然のように馬鹿にしていた八重瀬に対して、うまく謝れない。

 多分こういうところが、俺がまだまだガキだって言われる所以なんだろう。


 それでも八重瀬は困ったように笑いながら、こう言った。


「謝ること、ないよ。巴君は滅茶苦茶頑張って、あの光を避けてくれたじゃないか。

 巴君のスピードじゃなきゃ、僕は今頃死んでたと思う。

 本当に、ありがとう」

「いや、俺はそんな――」


 礼を言われるようなことなんて絶対してない。それどころか怪我までさせて。

 そう言いかけた俺を遮るように、八重瀬は続けた。


「元々無茶言って、ここまで来ようって言ったのは僕だよ。巴君は休んでても良かったんだから。

 それよりも――」


 八重瀬はふと、自分の足元を見る。

 ヤツの神器たる両手大剣が、膝ぐらいまで茂った草むらに放り出されていた。俺の視線も自然とそこへ向く。

 俺らの身長を超えるレベルに伸びきったその刃は、未だにこうこうと青い輝きを放ち続けていた。

 しかも、まるで何かを呼ぶように、ゆっくりとした明滅を続けている。


 八重瀬が今までろくに扱えなかった、神器。

 それが初めてまともに発動した瞬間、あそこまでの力を発揮するとは――

 俺は未だに信じられなかった。

 八重瀬もその剣を前に一瞬逡巡していたが、思い切ってその柄を掴んだ。


「巴君。

 とりあえず、君の手当てしよう」


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