娘は俺の子じゃない? 妻はポーカーフェイスに離婚を突き付けてきた。
耳を疑う話。しかし妻の話は真実なのだろう。
結婚して25年。一人娘がもうすぐ結婚というときの話だった。
私と妻は同じ会社で働いていた同僚だった。妻から言い寄られて付き合い出し結婚。
だが彼女は当時の上司とデキており、娘はその上司との逢瀬で出来たものだったらしい。
最近になり上司の奥さまが亡くなり、俺と別れてそちらと結婚するとのことだ。
しかも娘には何度も彼に顔合わせしていたという。
だったら今までの25年はなんだったんだ? このローンで建てた家は。娘が帰るべき実家はどこなのだ?
「家も財産分与も要りません。離婚届に判を押して貰うだけで結構です」
無表情でいい放つ妻。突然のことで思考がまとまらない。吐き気がする。今までのことが全て幻影だ。
「お父さん。徒競走で一位だったよ」
「はい父の日の似顔絵」
「相手はお父さんみたいな人。幸せになるよ」
娘の言葉。あの「お父さん」は誰に宛てて言っていたんだ?
「娘にはもう会わないでください。元々あなたの子じゃないし、あちらでは財産を相続させる意思ですから。結婚式にも私たちで出ますので」
息を飲む。やりきれない思いを。暴れだして全員地獄へ送りたい。
俺の人生を返して欲しい──。
◇
それから数日後。妻は出ていった。そしてすぐに娘から電話がきた。
「ちょっとお父さん!」
怒気を含んでの言葉。しかし父との呼びかたにうろたえた。すぐウチに来るとのことだった。
来るなり娘は泣いて俺に抱き付いてきた。
聞くと本当の父親を紹介する母親には当時から愛想が尽きていた。それを俺に言えるはずがなかったとのことだった。
「私の親はお父さんだけ! 負けちゃダメだよ! ちゃんと戦って!」
娘は俺の味方だったのだ。戦う活力が沸いてきた。俺はすぐさま弁護士を雇った。
最初、二人はしらばっくれていた。証拠を出せと言ってきたのだ。
証拠は簡単だった。娘とのDNA検査結果だ。父親の可能性がほぼ0という悲しい結果だったが、それが証拠となった。
二人には悪質ということでかなりの額の慰謝料と、今までの養育費を弁済させた。男は職も財産も失い、借金が残るほどだった。
娘と、この勝利に喜んだ。
「しかしちょっと可哀相かな?」
「優しすぎるよお父さんは」
「実の母親に対して残酷だなあ」
すると娘は微笑んだ。
「残酷なのは遺伝子のせい。でもお父さんに似て真っ直ぐに育ったでしょ?」
「違いないな。はっはっは」
さて人生はまだ長い。簡単には死ねないな。