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??? 灯火なき街 7

「お父さんからの眼鏡……大事な宝物だったのに~!」


「眼鏡って、琴音(ことね)っち。ひょっとしてコンタクトだったの?」


 友人の問いに、彼女は無言で頷く。

 そうだったのか……。メガネっ娘の彼女の姿も、意外と悪くない。


 俺がいらぬ妄想に耽ろうとしていると、


「どうしよう。もうあんな場所に探しに戻るなんて嫌だし……」


 打ちひしがれる彼女に、慰めの言葉をかけるものはいても、捜索をかってでる者はいなかった。


「俺だって、そりゃあ青蓮院のためなら頑張りたいよ。でも、あそこにもう一度行くのだけは……」

「ちょっと……無理かも……」


 申し訳なさそうに、やんわりとした言葉でクラスメイトたちが彼女のそばを離れていく。

 おかげで、俺のいる位置からでも彼女の姿がはっきりと見えるようになった。


「青蓮院さんには悪いけど、あのお化け屋敷の中で捜し物をするなんて無理だわ」


 金木さんが、心底申し訳なさそうな声で一人呟く。


「中に入ったからわかるけど、このお化け屋敷、ただの一本道じゃないのよ。入るたびに通路の形が変わる、まるで不○議のダンジョンみたいな構造なんだわ」


 金木さんの観察眼もたいしたものだ。

 ワーキャー騒いでるだけかと思ったけど、意外にも周囲に目が行き届いている。


 そして確かに、金木さんの言うことは正しい。


 あの館のシステムは、おそらく侵入者の恐怖のサインを自動的に検知し、その相手が最も怖がるルートにその姿を変える。

 極端な話、彼女と同じルートを通れるのは、彼女以外に誰もいないってことになる。


 さらにやっかいなのが──


「そういえば、青蓮院(しょうれんいん)さんが入ったとき。彼女、あまりにも怖がりすぎてあっという間にゴールから出てきちゃってたわよね。ひょっとして、屋敷の構造が変化するよりも速く駆け抜けちゃったんじゃないかしら」


 そう、金木さんの言うとおりだ。


 彼女が館に入ってから、出口から出てくるまでの時間はあまりにも短すぎた。

 それは、彼女の足の速さをひいき目に見積もってもおつりが来るほどだ。


 おそらく、ほかの生徒たちの誰一人として、彼女のルート──いわば青蓮院ルートを通っていない。ひょっとしたら、この館に入った誰一人としていないかもしれない。


「仕方ないけど、事情を説明して係の人に後で回収してもらうしかないわよ」


 金木さんの言葉に、俺は黙って頷いていた。


 確かに、彼女の言うことは徹頭徹尾正しい。普通の人間が普通にやったのでは、絶対に彼女の落とし物を見つけることはできない。

 システムを切ってもらい、改めて捜索してもらうのが最善だ。


 でも、この館に入る前。俺は見逃してはいなかった。


 この館は期間限定開催。そして、今日がその最終日なのだ。

 ひょっとしたら、今日を終えた後は館の撤去が始まり、そのさなかで彼女の落とし物はどこかに消えてしまうかもしれない。


 そうなったら──


「……!」

「どうしたの佐藤君?胸を押さえて。ひょっとして、どこか苦しいの?」


「……ちょっとね」


 ちょっとどころの話ではなかった。


 初めて目の当たりにして、ようやく気づいた。


 こんなにも苦しいのか……。

 自分が大好きな人間が悲しんでいる姿を、ただ見ているしかできないというのは……!


 胸の奥をかきむしりたくなるような衝動をぐっとこらえ、俺はとなりに立つ金木さんにそっとささやいた。


「ゴメン、ちょっと行ってくる」

「え……?一体どこに?」


 「命を賭けてでも、手に入れたいものがあるんだ」などと、歯の浮くような台詞をぐっと飲み込み、たった一言。


「……もう一回、トイレに……」

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