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??? 灯火なき街 5

──黒原(くろはら)哲也(てつや)の場合──


「あらあら、他校の生徒まで乱入してきたじゃないの」


「そういえば、貸し切りにした記憶もありませんでしたから。この館の噂は商店街でも有名になってきてますし。まさに"肝試し"として参加するクソガキもいるでしょうね」


酸田(すだ)さん。その呼び方は、慎んだ方がいいわよ。それはさておき、あんなに気合いの入った不良相手じゃ、さすがに難しいんじゃない?」


 モニタの向こうでは、暗闇の中を物怖じせずにズンズンと進む黒原の姿があった。


 夜目でも利くのかと思ったが、そうではないらしい。

 何かにぶつかっても、そのことごとくを破壊しながら進んでいるのだ。


「……シンプルに器物破損よね。ギミック自体を破壊されたんじゃ、どうしようもないでしょう」


「ふっふっふ。先輩。私の作ったシステムに隙はありません。ギミックにはいくつも予備があります。それに、あの手の不良生徒のパターンも、すでに想定済みです」


 モニタを眺めながら、スラリとした指を二本立てる。


「まず一つ。あの手の馬鹿ガキは、この館のルールを理解してません」


 ちょうどモニタの中で、黒原の前にゾンビの人形が立ち塞がっていた。

 非常に精巧な作りで、腐りかけた肉片の触感や、血なまぐさい匂いまで再現している。


 ドロドロに溶けた声帯を模したスピーカーから、世にも恐ろしい声が響く。


『オマエも、、、ナカマニなれ、、、』


 しかし黒原は平然と構えていた。むしろ、ようやく戦うべき相手が目の前に現れて喜んでいる節すらある。


「こんなんで、この俺が怯むと思ってんのか、ゴラア!!」


 怒声と共に、渾身の右ストレートがゾンビの胴体を貫く。

 ズブリ、という気色悪い感触にも怯んだ様子はない。しかし──


<声を上げてしまったので、失格となります>


「んだと!?俺の負け?んなわけあるか、完の璧に叩きのめしてやったろうが!」


 館では声を上げてはいけない、と言うルールを把握していない黒原。

 何かに負けたらしいと言う認識だけが、彼をさらに怒らせる。




「あらあら、余計に怒らせちゃったじゃないの。それに、ルール上の失格とはいえ、彼は全然恐怖していないわ。貴女の理論の実証には、なっていないんじゃない?」


 頬杖をつきながらモニタを眺める(さち)に、酸田(すだ)は強気の姿勢を崩さない。

「先輩、見ていてください。本番はここからです」


 酸田(すだ)が示した画面の向こうでは、黒原の周囲に黒い霧のようなものが立ちこめ始めていた。






「……降参だ、畜生……」


 すっかりやつれきった表情で、朱久の番長とか言う生徒が館から出てくる。

 どこかで見た顔の気がするが、あんなに憔悴した表情をされては思い出すこともできない。

「俺は、拳で殴れねえモノだけは苦手なんだよ……」


 トボトボと去って行くその後ろ姿。

 いつの間にか俺の腕にしがみついていた金木さんが俺に問う。


「ねえ佐藤君。あの不良、一体何と戦っていたのかしら?」


「おそらく、立体ホログラムじゃないかな。霧状のガスを満たした空間に三次元的に光を投影することで、立体的な画像を作り出せるんだよ」


 きっと、本物のゴーストとでも勘違いしたんだろう。

 あるいは、どれだけ殴ってもまったく通用しない相手に辟易としたのかもしれない。


「いずれにしても、ただのお化け屋敷にしては無駄に豪華な設備だね」


「佐藤君は行かないの?」

「俺は、もう行ったさ。すぐに降参して出てきたけど」


「嘘、私見てたもん。佐藤君、最初から目立たない位置に隠れてて中に入ろうとしてなかった」


 金木さん、まさか本気のステルスモードに入った俺の居場所を見抜くなんて。

 君もただ者ではないね。


「まさか、佐藤君も恐いんでしょ」

「そりゃあ恐いよ。この年でみっともなく悲鳴を上げるのなんて嫌だし」


「ええ、私。佐藤君がそんなに怖がるところ想像できないな」


 金木さんはそう言うが、俺が本当に恐いものなんて、その辺にありふれている。


 人の視線が何よりも恐ろしい俺にとって、それ以外のモノなどたかがしれている。

 ……と、思うかもしれないが、実はそうではない。


 俺だって、人並みの恐怖心を持っている。だから、きっとあの館の中に入ればみんなと同じように悲鳴を上げるだろう。


 だけど、その後にみんなから注目されるかもしれない、と思うだけで今も足が震えていた。

「ほら、佐藤君も行ってきなさいよ。そろそろ挑戦者も底をついてるみたいだし」

「だから、大丈夫だって……」


 嫌がる俺に、なぜか執拗に食い下がる金木さん。

 どうやってこの追撃をかわすか思慮していると、思わぬところから助け船はやってきた。


「ねえ、自由(カオス)くん。ここが、最近流行ってるめっちゃくちゃ恐いお化け屋敷なんだって~」


「んだよ、こんなもん。俺様にかかればイチコロだぜ!」


 大勢の女生徒を従えて、どこかの不良生徒のような頭の悪そうな台詞を吐いているのは、何を隠そう我が弟──佐藤自由(カオス)であった。


 あの馬鹿……こんなところにやってくるなんて……


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