表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/82

??? 灯火なき街 4

 ──3年A組、その他の生徒の場合──


「……ダ、ダメダ……」

「恐い……もうヤダ……」


「3年前のトラウマが……」

「お母ちゃん、生まれてゴメン……」


 館の前には無数の生徒が床にうずくまっていた。

 一人残さず目は虚ろ。恐怖のあまり目の焦点が合っていない。


 それこそ、みんながゾンビになってしまったかのような光景だ。見ているだけで恐ろしい。


「いったい、どうやったらここまで人を追い込むことができるんだ」

「ううう、佐藤君も入ってみればわかるよお……」


 半泣きで俺にすがりついてくる金木さん。

 中の様子を聞いてみても、皆それぞれに返事が違っていた。


 ある生徒は「急に地面が揺れたと思ったら、轟音と共に空が光った」と言い、

 また別の生徒は「虫の這いずり回る音と、服の上を何かがひっかくような感触がした」と言う。

 

 「15歳にもなっておねしょしたことをグチグチと説教された」と言う者までいた。


 どう考えても、単調なシステムのお化け屋敷とは思えない。

 入ってくる人間に合わせて、ギミックを組み合わせているんだ。


 普通のお化け屋敷で、ここまでやるか?

 でも、おそらく間違いない。誰にも聞こえないように、こっそりと呟く、


「つまり、この館のトリックは──




「──コールドリーディングね」

「ご明察。さすが先輩です」


 コールドリーディング。


 心理学では比較的有名なテクニックで、何気ない人間の仕草をつぶさに観察、解析することで相手の内面をおおよそ読み取ってしまうというものだ。

 場末のスナックの占い師やなどが好んで使う技術で、誰にでも当てはまりそうな問いかけ──例えば「最近つらいことがありましたね?」などを切り口にして、相手の考えていることをさも霊感で言い当てているように振る舞うのだ。


「この館の場合、最初のちょっとした揺さぶり──例えば遠くから聞こえるうめき声とか、生臭い風の気配などで相手のリアクションを解析。対象者が恐怖を覚えるパターンを自動的に解析して、次のセクションでそこをさらに強く攻め立てる」


「恐怖のサインを見逃さないことが、何より重要になりますから。ただの監視カメラだけじゃなく、赤外線カメラや発汗センサなども各所に設置しています」


 自信作を自慢する口調で館の仕組みを説明する酸田(すだ)。研究者という者は得てしてそうなりがちだが、自分の理論を証明するためならば簡単に人道を踏み外してしまう。


「しかも、この理論の素晴らしいところは、"恐怖は伝染する"ということです!人間というものは、"みんなが怖がっている"という雰囲気に飲まれてしまうだけで恐怖を感じてしまう愚かな生き物なんです。つまり、大勢を導き、指導するために最も効果的なのが恐怖という感情を操ることなんです……っ!」


「よくもまあ、こんなシステムを思いついたものだわぁ……」


 深いため息をつく。

 一研究者として、よくぞここまで効率的な理論を構築したという感嘆のため息でもあり、

 一教育者として、よくぞここまで非人道的なシステムを構築したという悲嘆のため息でもあった。


「と、あら?うちのクラスメイト以外にも、思わぬ乱入者が来たようよ?」


 うずくまる多部川の生徒を押しのけるように、何者かが館の入り口の前に立つ。


「おうおう!この俺──朱久の恐怖の番長──黒原(くろはら)哲也(てつや)を差し置いて、恐怖で学生を支配するとか言ってるらしいじゃねえか!いいだろう、俺が相手になってやる!タイマンで行くぜ、ゴラア!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ