くだんの日†††
同時刻。金木家。
「あ、お姉ちゃん。久しぶり」
「めぐみ~。会いたかったわよ~」
「わっぷ、お姉ちゃん!急に抱きつかないで」
「そんなつれないこと言わないで~。仕事でロクに可愛い妹に会えない日々で、お姉ちゃん寂しかったんだから~」
いつものクールな印象とは打って変わり、妹の前でのかおるは終始デレっぱなしのシスコンであった。
嫌がるめぐみを完全に無視し、久しぶりの妹成分を存分に摂取している。
「まして、最近の妹ときたらめっきり色気づいてきて女っぽくなって~。しかも、今日もご機嫌じゃない?また進展があったんじゃないの~?」
息を吸うように図星を次々と言い当てられては、めぐみも正直に白状するしかなかった。
先日二人で喫茶店から映画館という、デートの黄金コンボを決めた時のことを話す。若干自慢げに、心から嬉しげに。
「やるじゃな~い。普通は映画館~喫茶店の所でしょうけど、流石私の妹は一味違うわね」
何がどう一味違うのかは分からないが、褒められて嫌な気はしない。
「その佐藤くんって男の子、今度会ってみたいわ。めぐみが気に入るんだから、きっと素敵な子なのよね」
「えへへ~」
照れ笑いする妹の頭を優しく撫でまわす。
「でも、お姉ちゃんにいきなり会わせるのも大変かも。佐藤くんって、実はスッゴイ人見知りする人なの」
「そんなこと言って~。別にお姉ちゃんはめぐみの彼氏を取ったりしないわよ~」
「か、彼氏じゃないって!」
頬を染めて本気で恥ずかしがる妹をたっぷりと愛でる。
人の目を気にする少年の話を聞いていると、不意に先日の喫茶店での会話が思い起こされた。
「そうそう。お姉ちゃんも最近、似たような子に会ったの。めぐみから噂を聞いてた青蓮院さんって娘」
「え……?」
個人情報保護の観点で、本来ならば顧客情報をもとに勝手に面会に行った話などをするべきではなかった。
信頼できる妹相手であるし、妹のクラスメイトに会ったというだけならばさして問題もないだろうと、かおるは先日の一幕をめぐみに話して聞かせた。
妹とじっくり話す機会は久しぶりで、琴音とめぐみの間の微妙な関係について、かおるは何も知らなかったのだ。
「まあ、秘かに応援していた作家が実はクラスメイトで、しかも自分に好意を寄せてくれてたってなったら、普通は驚くもんよね。まして、彼女は人一倍勘が鋭いもんだから、妙なところまで気が回っちゃって」
「……そう……なんだ」
かおるからすれば、クラスの有名人の少し変わった一面を披露したつもりだったのだが、何故かその話を聞いためぐみの顔色は優れない。
黙って俯き、両手をぎゅっと握っている。何かに耐えているようであった。
「って、どうしたのめぐみ?」
「……」
思い詰めた様な表情。妹がこんな切羽詰まった顔を見せるのは珍しい。
すぐさま異常事態を把握したかおるだが、もはや手遅れであった。
「なんなの、それ……。二股?そんなそぶり、一切見せてなかったくせに……」
「ねえめぐみ。お姉ちゃん、何かまずいこと言っちゃったかな?」
妹に何が起こったのかが分からず狼狽える。
確かなことは、知らず知らずのうちに自分が妹の地雷を見事に踏み抜いていた、ということだけだった。
「……許せない……!」
弾けるような勢いで立ち上がると、妹は自分の部屋に足早に去っていく。
鬼気迫るその様子に、かおるは嫌な予感を覚えた。妹は昔から正義感が強い。人一倍弱者に優しく、それ以上に理不尽に厳しい。
そんな危なっかしい妹の一面に、これまで何度も冷汗をかいてきたのだ。今回、背中を流れる嫌な汗もその類だろう。
翌日。
香田 幸に続き、第二の"偽ホリック"がネット業界を軽くにぎわせることになるのであった。
──拝啓、青蓮院琴音 様
私は、あなたのことが嫌いです。
周囲の目線ばかり気にして、自分の意見を何一つ持たないところも
その癖、周囲の人たちを自分の想いのままに動かそうとする傲慢なところも
大事な決断を人に委ねて、自分では何も決めない優柔不断なところも
無自覚に他人の大事なものを奪ってしまおうとする我儘さも
何もかもが嫌いです。
できることならば、私の視界から消えてほしい。
光と影のように、金輪際あなたと関わり合いたいと思えない。
そんなことはできないとわかっていても……。
でも、だからこそ私はあなたのことが憎い。
きっと叶うことのない願いを、私はここに記さずにはいられない。
A・ホリック
豪快に地雷を踏み抜いたお姉さまと、大爆発を起こした妹には、本作のMVPを戴冠予定です。
金木姉妹なくして、本作は成立しえなかったでしょうから。
あと一話、暗黒面のお話が続きます。




