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風変わりな校舎と隠れんぼ

「状況を整理しよう」


 保健室の隅っこで、臨時の作戦会議を始める。

 分厚いカーテンのおかげで、部屋の電気がつけっぱなしでも外にはバレていないだろう。

 ていうか、漏れていたらとっくに見つかっているに違いない。


「今は夜の9時。もうすぐ先生たちが巡回を始める時間だ。それまでにどうにかして学校の外に出ないといけない」

「なんだか今日の佐藤くん、いつにも増して積極的だね」


 何故か感心したように目を輝かせている彼女だが、今はそれに構っている余裕はない。

 事態は切迫している。もしも見つかるようなことがあれば、平穏な俺の学校生活は幕を閉じる。


「でも、そんなの簡単じゃない?」


 彼女が窓際によって、ガラス戸に手をかける。

 この学院は、全て平屋。2階が存在しないのだ。


 理由は簡単。これだけの大勢が一斉に階段を、安全に利用することが困難だと判断されたからだ。

 避難訓練を想像してもらえばわかりやすいだろう。どれだけ階段を大きくしても、危険性を排除することはできない。


 つまり、窓を開ければそこは地面。普通にそこから外に出れるはずだった。


 しかし──


「窓は開けないで、ていうか手も触れちゃダメ」

「え?」


 さすがの反射神経。ギリギリのところで手が止まる。


「夜になると、警備システムが起動して、迂闊に出入りしようとすれば警報が鳴るんだ。逃げようとしても、すぐに警備員が駆けつけてくる。そこから逃げるのは、得策じゃない」

「どうしてそんなに詳しいの、佐藤くん?」


 全ては、我が弟の賜物。

 夜な夜な学校で悪さを働いているもんだから、だんだんと警備が厳重になっていったらしい。

 しまいには現在のシステムにまで発展して、そこで弟は夜の学校で遊ぶのを断念した。


「父さんが警備会社の仕事をしていて、この辺のシステムに詳しいんだ」


 適当な嘘をついて誤魔化す。弟とのつながりは、極力伏せておくに限る。ていうか、こんな身内の恥を好んで喋りたくないでしょ。


「もうすぐ、当直の先生がロックを解除して見回りに来るはず。脱出の機会はそこしかない。先生の目をかいくぐって、先生が入ってきた入り口からこっそり抜け出すんだ」

「でも、それって難しくない?この学院の構造って……」


 彼女が言う通り。

 この学院の校舎の構造上、見回りの教師の目をかいくぐるのは至難の業だ。


 何故かって?

 それは、この校舎はほぼ一直線の、超細長い構造をしているからさ。

 細長い廊下沿いにいくつもの教室が並んでいるだけ。つまり、階段も、分かれ目もない直線上の廊下の端っこからやってくる先生から身を隠さなくてはいけないのだ。


「わかってる。でも、やるしかない」


 ここまで追い込まれてしまったが、俺には撤退の二文字は存在しない。

 断固とした俺の視線に押されたのか、彼女は黙って頷くだけだった。


 ……はて?

 俺は彼女の言動に少し違和感を持った。


 いつもの彼女なら、「深夜の学校での鬼ごっこ!楽しみだねー!」とか言ってはしゃぎだすかと思ったのだが。

 今は、少し頬を赤らめて静かに頷いているだけ。


 まずったかな。ちょっと強気に行き過ぎただろうか。

 追い詰められているせいで、いつものように自制心が働いていないかもしれない。


「じゃ、じゃあこういうのはどう?」

「?」


 ちょっと照れ恥ずかしそうな提案。

 何かと思ったが、彼女はこんなことを口走ったのだ。


「保健室のベッドに、二人で潜ってやり過ごすってのは」

「ブッ……そ、それは確かに魅力的……じゃなくて、リスクが大きすぎるのでダメ。先生の見回りは結構徹底していて、ベッドの中まで調べるらしいからね」


 鼻血が出そうになるのを懸命にこらえ、どうにか真顔で却下する。

 青蓮院さん、そんな男を狂わせるようなお誘いは控えていただきたい。


 しかも貴女、真顔でそう言うこと言うからタチが悪いです。冗談で言ってるわけでもなく、誘惑するような意図もない。純粋に、最善手だと思って提案してくれていたのだ。

 年頃の女の子なら、そんな提案恥ずかしくて絶対にしてこないと思うんだが……。まあ、それだけ俺を異性として見ていないってことか……。


「そっかー。結構いけるかと思ったんだけどね。でも先生って、そんなところまで見まわるんだ」


 確かに、隠れる場所がほとんどない教室などに比べると、ここ保健室はかなり魅力的な場所ではある。

 ただし、我が弟が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だが……。

 つまり、先生たちにとって最も危険な場所が、このベッドの上なのである。


「とにかく、まずはここを出よう。行きたいところもあるしね」

「え、どこどこ?私もついてくよ」


 いつもの彼女に戻ったようだ。好奇心を剝き出しにして、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「だめ。ここで待ってて」

「えー。どうしてー」


 頬を膨らませて抗議の意を示す彼女。

 あまりの可愛さに思わず前言を翻しそうになったが、鋼の意思で自制する。

 なぜなら……


「トイレだから」

「……あ、ゴメン」


 また、頬を赤らめて俯く彼女。

 普段見せない、こんな恥じらいのある仕草も可愛いな。


 って、そんな余裕見せてる場合じゃないって?その通りだよ!


超広い校庭の三方を、超細長い校舎が囲っているレイアウトです。

時間割の兼ね合いで、端から端まで移動する場合もあります。徒競走の開始です。

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