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寝坊と遅刻



「ねえ、佐藤くん。あなた、さっきも本気出してなかったでしょう?」

「……気絶から回復したクラスメイトにかける最初の言葉がそれって、ちょっとどうかと思うよ?」


 保健室のベッドで目を覚ました俺。顔を覗き込むように、彼女の大きな瞳がそこにあった。

 心配する、と言うよりも何かを咎めるような目線だった。


「……だって、気絶なんかするから心配したんだもん。でも、保健の先生は全然大したことないって言うから……」


 頬を膨らませて弁明、というか抗議の言葉を重ねてくる。

 なんか、こんな姿も新鮮で可愛いな……。


 彼女の言い分も正しい。俺が気絶したのは、弟に踏まれたからでなく、みんなの注目を浴びたからだ。


「バッティングセンターの時もそうだったけど、佐藤君って()()()そうやってるの?」

「買いかぶり過ぎだよ。だいたい、なんでわざわざそんな面倒なことしなくちゃいけないのさ。実力があるんなら、隠す必要なんてないだろ?さっきのあの後輩みたいに」


 わざわざ言いふらす必要がないので、自由(カオス)の兄が俺であるというのは誰にも言ってない。

 変に注目を浴びるリスクが増えるだけだしな。


「うーん。確かにそう言われればそうなんだけど……。でも、私の勘が、何かに引っかかってるのよね」


 「隠し事をしても、君のためにならないぞ」と、まるで警察の尋問のような口調でにじり寄ってくる。

 そんなこと言われても、長年鍛えに鍛えた自制心を打ち破るのは不可能だ。しかし、それにしても距離が近い。彼女の甘い吐息が頬をくすぐる感覚がする。

 別の意味での自制心が崩壊しそうになる。保健室に二人っきりとか、並の男子なら1000回は告白してるぞ。


「それより、ひょっとしてもう放課後かな?校庭に人気がないんだけど」

「そ、そういわれればそうかも……ね……。でも、そうでもないかな?」


 陽が落ちて暗くなっている。

 確かに、もうとっくに下校時間を過ぎていた。


「ていうか……なんだか暗くなりすぎてるような気が……」

「え、そ、そうかな?」


 俺の言葉に動揺する彼女。

 なにかおかしい。彼女ほどではないが、俺も人間観察はそこそこ鍛えたつもりだ。


「青蓮院さん。何か隠してるでしょ」


 「隠し事をしても、君のためにならないぞ」と、まるで警察の尋問のような口調でにじり寄ってみる。

 まあ、俺の方はそんなに距離を詰めるような度胸はないんだけど。


「じつは……」


 すまなそうに詫び、腕時計の時間を見せる。

 時刻は、21時。下校時刻どころではない。校内に残っている時点で完璧な校則違反となる時間だった。


「どうしてこんな時間に?」

「いやあ……。私も付き添いしてたつもりが、いつのまにか寝ちゃってて」


 「アハハ」と、いつものように、どう足掻いても憎みの様のない完璧な笑顔で正直に白状してくる。


「実は、私も目が覚めたのはついさっきだったんだ」


 悪びれもなくそう言われては、何の追及もできる訳がない。

 一つ確かなのは、万が一にでも『深夜の学校に男女二人きり』でいるところを誰かに目撃されてしまっては、とんでもなくまずいということだった。


「まあ、先生たちには事情を説明すれば問題ないよ」

「……駄目だ」


 "隠し事"と言う言葉からは無縁といった様子の彼女だったが、今回ばかりは俺の方が正しい。

 いや、実は彼女の言うことは間違っていない。


 ただし、より正確に言うならば『事情を説明すれば"彼女は"問題ない』ということだ。

 彼女とペアを組んだことでただでさえクラスで有名になりかかってるというのに、もしもこのスキャンダルが追加されれば……。


 間違いない。明日、俺の居場所は学校から消失する。

 どこにいても好奇の視線にさらされ、一瞬たりとも行動や、思考することさえできないだろう。

 体育の授業の体たらくを見たろ?たったあれだけの視線でも失神したんだ。それ以上の注目に、しかも常にさらされることがあっては、下手したら呼吸すらかなわずに窒息死しかねない。


「先生たちに見つかるわけにはいかない。先生も、警備員さんたちもかいくぐって、絶対にバレない様に下校するんだ……!」

「う……うん」


 かつてない程の気迫をみなぎらせる俺の目線に気圧されたのか、彼女が珍しく静かに頷いて応じてくれた。

 堅牢で有名な多部川学院の警備システムをかいくぐるのは至難の業だろう。


 だが、やるしかない。

 明日以降も、平穏な学校生活を維持するために、なんとしても……!


保険の教師がいなくなった理由は、後できちんと説明する予定です。

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[一言] 保険でなく保健では?
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