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正義と自由

 ──その日の晩


「それで、ランキングの様子はどうなんだよ?」

「聞いて驚け、弟よ。日間だけでなく、週間ランキングも快走中だ。明日にはシングルランカーになっているだろう」


 壁越しに弟にドヤる。。

 なにしろ、他に自慢する相手がいないんだからな。


「しっかし、アニキのラブレターを、しかも没になった原稿がこんなに受けるなんて、妙な話だよな」

「そこには完全に同意する。世の中、よく分からん」


 強いて言うなら、『雪の残り香』にはまだ"照れ恥ずかしさ"が拭えていない。

 世界中に公開されるとわかって、無意識の内に俺がブレーキをかけているのかもしれない。

 でも、その控えめな表現の方が作風に会ってると思うから今更変えたりはしないけど。


「俺様のクラスでも人気だぜ、アニキの手紙。この前の『蒲公英(タンポポ)の宇宙旅行編』なんか、どうやって思いついたんだよ?」

「……人を好きになるってことは、今までとは違う自分になるってことだ。どれほど過酷な環境でも生き抜き、相手に思いを伝えるという覚悟を表したつもりだ」


 真面目に答えてみるが、壁の向こうから返ってきたのは無遠慮な笑い声だった。


「ゲハハ!あんなホンワカした文章にそんな壮絶な決意が潜んでるなんて誰も思わねえって!」

「きっと彼女になら伝わる……。とは思えなかったから没にしたんだけどな。そういう意味では、お前が正しい」


「そういや、小説の方はどうなんだ?」

「そっちは変わらず。最底辺を絶賛低空飛行中」


「まだ続けんの?だって、ラブレターの方がウケてんだから、そっちに全振りすりゃいいのに」

「そんな不義理をするわけないだろ」


 呟きながらPCの画面をのぞき込む。

 ホーム画面には、いつもと同じように"感想が書かれました"のお知らせが出ている。


 やはり、というか当然、エドさんだ。相変わらず、丁寧に小説を読み込んでくれているのがバッチリ伝わる、心温まる様な感想文だ。

 ちなみに、ラブレターの方は感想を受け付けないことにしている。いくら好評とはいえ、本来は彼女にあてた手紙なんだから、彼女以外からの感想は必要ないからな。


「ありがたやありがたや」


 画面に向かって拝んでいると、


「いつものエドさんか?」

「おうよ。俺は、エドさんがいる限り小説の方も書き続ける。それだけは揺るがない事実だ」


「奇特な人もいるもんだ。そんじゃ、明日は早いからもう寝るわ」


 そういった刹那、寝息が壁越しに聞こえてくる。

 なんと効率の良い生活スタイルだ。俺なんか、ラブレターを書いた後は興奮して暫く眠れないってのに。




 さて、これからもうひと頑張りするか。


 珈琲でも入れようと席を立つ。すると、机の脇に挟まっていた一枚の写真が床に落ちる。

 かなり古ぼけ、年季の入ったやつだ。


「これは、幼稚園の運動会の写真か……」


 口に出して拾い上げる。

 両親に挟まれて、得意げに笑う男の子と、悔しげに泣いている男の子。

 俺たちの、10年近く前の姿だ。


「この頃は、あいつもこんな生意気になるとは思わなかったな」


 生意気だが憎めない、そんな我が弟の現在と昔を重ね合わせてみる。

 ……うん、全然重ならない。まるで別人だ。


 焦点をさらに絞る。

 二人のつけていたゼッケンには、俺達の名前が記されていた。両親のこだわりで、幼稚園児なのに漢字で書いていある。



 

 正義  自由




 どうだ。格好いいだろ?

 ていうか、名前負けしてるよね。うん、分かってる。


 今更でなんだが、俺達の自己紹介をしておこう。

 

 佐藤 正義。そして弟の佐藤 自由。


 よろしくな。

 弟は、よくよく考えれば完全に名前の通りだ。学校でも好き勝手やっている。


 それに比べて俺の方は……。


 いや、よくよく考えてみれば、俺の方だってそんなに外れてないか。

 名は体を表すってのは、あながち間違ってないのかもな。


「さて、昔のことより今はこれからのことだ。さあ、今日こそ書き上げるぞ、究極のラブレターを」





兄の正義はN(Notice)ジャマ―を搭載。

弟の自由はNジャマ―キャンセラーを搭載しています。

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