お前がいないと寂しい
それから幾年月、人間はあいも変わらず我の近くで生き続けた。時折くる国の民との折衝をし、もらったもので料理をしたり、時には楽器を弾いたり。
しかし、やはり呪われの身というのは短命である。まだ肌は潤いを保っているのに、此奴はほとんど動けなくなっている。
「見苦しいな、人間」
「はは、それは私が一番わかってるから、わざわざ言わないでほしいな」
もうすぐ死ぬのか。あんなに煩かった此奴が。
「……人間」
「なに?」
「お前は、まだ生きていたいか?」
「どうしたの? 人間嫌いの竜神様」
見透かしたように目を伏せて、我のほうを見据えてくる。
「私がいないと寂しくなる?」
「……ああ、寂しいよ」
人間は、はっと息を吸い込んで目を見開いた。
「我は、もともと人間は嫌いではなかった。
ただ、合わない人間がいただけで。
傷つきたくないから、遠ざけていただけで。
お前と過ごして、それがわかった」
人間は、今まで見せたことがないほど、朗らかな笑みを見せた。
「やっと、自分から言ってくれたね」
「ああ。だから、お前がまだこの世界で生きたいのなら、我の命をお前に分けよう」
それなら、と人間はいたずらっぽく唇を歪めた。
「君と一緒に死ねるだけの命を頂戴」
「人の身に余る、永い時間を生きることになるぞ?」
「いいよ、君が一緒なら」
「そうか」
木々から光の粒が立ち昇る。辺りは黄金の野となり、冷たさなど微塵もない。
暖かな世界で、我と人間を囲う魔法陣が展開された。
───*───*───
とある森に、人間と暮らす竜がいるという。
日がな一日、それぞれ好きに過ごし、時折くる客人をもてなしている。
人間には呪いが憑いている。だから竜は目が離せない。
それが建前だということを知るのは、当事者たちだけである。