私のことを知って欲しい
ある夜、焚火を始めた人間が、「ちょっといい?」と意味深に呼び出してきた。湖から半分だけ顔を出す。
「私のこれまでを、話したいんだけど」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって失礼じゃないかな⁉︎」
顔を背けて水に沈む。角だけを水面から出したままにしていると、人間はそのうち話し出した。
───*───*───
私もね、もとは普通の子供だったんだよ? 笑って、泣いて、勉強して。みんなと話して、喧嘩して、仲直りして。
色々知りたいことは自分で調べてたら、街一番の学校で首席を取ってた。特に神様や、そこに関する魔術が好きだったから、魔導の道に進んだんだ。
そしてある日、街近くの森の中にある祠へ調査に行くと、子供と、壊れて扉が外れかけてる御社があった。その御社は、とても強力な疫病神を封じているという言い伝えがあるもので、封印が壊れかけて、今にも厄災が溢れそうになっていたんだ。
考える暇もなく飛び出した私にはその疫病神の呪いが纏わりついてしまって、自分の結界ですら完全には防げなかった。
このままだと村のみんなに迷惑がかかるから、旅に出ることにしたんだ。その子は心配してくれたけど、「いつか旅に出たいと思ってたから、ちょうどよかったよ。ありがとう」って言ったんだ。
───*───*───
「……っていうことで、それからどうにか結界術を改良して街には拠り付けるようになって、辻馬車とかを使って渡り歩いて、ここまでたどり着いたってわけ」
話し終わった人間に、顔を半分だけ水面から出して問いかける。
「……何故わざわざそのような話をしたのだ」
「うーーん、どうしてだろうね。したくなっちゃったんだ。自分の中を整理したかったのかもしれないし、あなたに私のことを知って欲しかったのかもしれない」
……。
「あなたのことも教えて欲しいな」
「断る」
話はこれで終わりだと見切りをつけて、湖中へと潜った。後から何やら騒がしげな雰囲気がするが、気にする必要はないだろう。あれだけ元気なら。