新しき友との出会い
何時間寝ていたのだろう。目を覚ますと辺りは真っ暗、よほど疲れていたのか熟睡してしまった様だ。
時計を見ると夜の7時半
裕子「・・・」
裕子「きゃー」悲鳴を上げた。
「寝るにも程があるじゃない。ゴンゾさんまだなの?勘弁してよ。まったく、明日仕事なのよ。」
「草刈りの仕事が終らない。てな事はいくら何でも無いでしょうよ。」
「ガソリンスタンドまで、遠いの?いくら何でも夜の7時までかからないでしょ。」
肩を落とし、ため息をつきながら言う。
「忘れられている。」
グローブボックスから、非常用の懐中電灯を取り出し車を降りて、ゴンゾが車で走り去った方向へ歩きだした。
1分も歩いたところで、遠くから車がこちらにやって来るのが見えた。
軽トラックは、ゆっくり停車して窓を開けた。
ゴンゾが顔を出す。
ゴンゾ「すまん、すまん、忘れていた訳じゃないんだわ」
裕子「待ちくたびれたわよ。」
寝ていた事は内緒
ゴンゾ「だけどな、まだガソリンスタンド行けんのだわ」
裕子「えーそんな」
ゴンゾ「小さい子が2人行方不明でな。捜索に出とるんだわ。すまんが、まだ時間がかかるから、どうしようもないんや。」
裕子は、それを聞くと体中の力が抜けて、懐中電灯を落とした。
ゴンゾ「ほな、また来るでよ。寝すぎんなよ~!」
落胆した裕子を尻目に軽トラックを走らせて行ってしまった。
裕子「こんな田舎じゃガソリンスタンドそろそろ閉まる頃じゃないの?」
裕子は落としてしまった懐中電灯を拾って車に戻った。
シートに寝そべると、「はー」っとため息をついて考え事をしだした。
(あの時ガソリン何で入れなかったのかな・・・)
(明日までどうしようか・・・)
(仕事休むしかないよね・・)
(連絡取らないと無断欠勤だけは・・・)
(電話借りられるかな?ふもとの村まであんまり遠くないんだよね。子供が通って行ったし・・・)
裕子はハッと気づく
裕子「ゴンゾさんが捜索してるのって、あの子供達だ!夕方ごろ車の横を通ったじゃない。斜面を下って行ったよね。きっと怪我をして登れなくなったんだ!」
懐中電灯を手に取ると、裕子は子供達が川へ下って行った斜面を懐中電灯で照らした。
ガードレールの切れ目へ行き、草が覆い茂る中に足を踏み入れる。
かすかに人が通れる真っ暗なケモノ道
裕子「うわっ・・ここを降りるの?」
日のあるうちなら、楽に降りられただろうが、この真っ暗だとさすがに危険だ。
だけどこの道の先に子供がいるはず。
行かないわけにはいかない。
細くどこで途切れるか分からない道をゆっくりと進む。
顔の前で飛び回る虫を手で振り払いながら必死で、懐中電灯の小さな光を追う。
一歩一歩足元を確かめながら、慎重に進んだ。
しばらく進むと何かがある。
目の前の木の枝に何かが風に揺られてユラユラと、たなびいていた。
懐中電灯で照らすとそれは、青い手さげ袋だった。
たしか女の子が手に持っていた袋だ。
手さげ袋を取ろうと手を伸ばし、1歩踏み出した・・・が足元に地面が無かった。
裕子「あれ?」
そのままバランスを崩し斜面を転げ落ちた。
裕子「いーやー」
草をつかんで勢いを止めようとするが、草が簡単に千切れてしまう。
何度も草や木の根を掴んで必死に態勢を直す。
そのうち束になった丈夫な草を掴めたので、一瞬勢いが止まったが、プチプチと音を立てて草が切れてまた滑りだした。
足を下にする事ができたので、これなら頭から落ちる事だけは避けられる。
地面が迫ってくる。
そのまま斜面を滑り落ち最後に尻に衝撃を受けた。
だが、尻の下のやわらかい物が衝撃を和らげた。
裕子「あいたたた。」
裕子が顔を上げるとすぐ横に女の子がいた。
女の子「お兄ちゃん!」
両手を地面に広げてかなり驚いた様子。
裕子「へっ?」
裕子は尻の下に男の子の顔を敷いている事に気づいた。
裕子「ひっ!」
飛び跳ねるように男の子の上から退いたが、男の子は伸びていた。
裕子は男の子の両肩を抱き起こし慌てて声を掛けた。「うわ、あ・や・え・・大丈夫!」
男の子は気を失っていたが、苦悶の表情を浮かべ呻き声と共に目を覚ました。
軽い脳しんとうを起こしていたようだ。
男の子「いってえな!おばちゃん!」
裕子「えっ!おばちゃん!!お姉さんだよ!おねえさん!!」
男の子「わかったよ。どっちでもええわい。暗えんだから分からんわ。」
裕子「まったくもう。」
男の子「それは、こっちのセリフや。」
裕子が手を離すと男の子は立ち上がり、体に異常はないか確かめる様に軽く体を動かした。
裕子「ケガは無い?」
男の子「ケガは、ねえよ」
首と頭に手を当てながら言う。
男の子「あ~ 痛えわ。」
男の子「おねえちゃんの方こそケガはないんか?」
裕子「うん、ちょっと擦りむいただけ」
女の子「私、お腹すいた。」
裕子「あいにく何も持ってないな~・・・」
そう言ったとたん。”グ~”っと裕子のお腹が鳴った。
裕子は朝から何も食べてない事を思い出した。
男の子「アハハ、腹鳴らして。俺も腹減ったわ」
3人で笑った。
裕子「えっと自己紹介しようか。私は古賀裕子、ゆうこって呼んで」
男の子「俺、ひろきや。よろしくな、ゆうこ姉ちゃん。」
女の子「私、ひなみです。」そういいながらペコリと頭を下げた。
裕子は辺りを懐中電灯で照らして見渡した。
斜面の底の川まで滑り落ちてしまった様だ。
目の前には山間を縫って浅い川が流れ、その川幅は4mぐらい。
うっそうと茂る草や木
この辺りの地面だけは、なぜかコンクリートが敷かれている。
かなり古いコンクリートで何十年前の物か見当がつかない。
裕子「ところで何でこんな所に?」
ひろき「俺、今朝ここらへん歩いてたら、人の声が聞こえたんや。」
裕子「どんな?」
ひろき「ここから出して欲しいって、この草むらん中から聞こえたんや」
今、裕子が落ちてきた斜面を指さしながら言う。
裕子「人が生き埋めになってる?隠れた洞くつがあるとか?どちらにしても嫌な話ね。」
どこからどう見ても、ただの草むら
洞窟か何かが、ある様には見えない。
裕子「長い棒を持ってきて、地面に刺して何か無いか探ってみようか。」
ひろき「信じてくれるんか。ふもとの村の大人、誰も聞いてくれんくて困ってたんや。」
裕子「何もしないで、このまま帰ったら目覚めが悪いじゃない。さっさと探そう!」
ひろき「うん、棒探しに行ってくる。そこで待っといて」
ひろきは一人で行ってしまったが、3分ぐらいで地面に落ちてた2mぐらいの木の枝を拾ってきた。
ひろき「これでいい?」
ゆうこ「十分!ありがとね。」
裕子は木の枝を受け取ると、2~3歩づつ歩きながら何度も斜面に木の枝を突き立てた。
ドスッ、ドスッ、ドスッ
何度も場所を変えて木の枝を突き立てる。
謎の声「そこ・誰か・・で・り・・か?」
地面の中から叫んでいる様な声が、かすかに聞こえた。
謎の声「入り・・・・・右で・・・・。」
裕子「え!人がいる。」
謎の声「とに・・右であ・・・。」
裕子「ええっと右ね!」
くぐもった声で聞き取りにくいが、とにかく今の位置より右に何かがある事は分かった。
引き続き右に2~3歩づつ歩きながら、繰り返し棒を突き立てる。
ドスッ、ドスッ、バーン
何かに当たった。
裕子は木の枝をその場に置き、音が変わった所を懐中電灯で照らし草をかき分ける。
そこには、アルミドアが出てきた。
そのドアは、そこそこ古く設置されてから30年ぐらいは、経過している様に見える。
アルミドアの前には草が生え、何年も開閉していない様子で綺麗に隠れてしまっていたのだった。
邪魔な草を適当にむしり取り、ドアノブに手をかけた。
ドアノブを回したがとても重い、さらに手に力を入れた瞬間ある考えがよぎった。
(何年も開けてなさそうな扉)
(どうやって中に入ったの?)
(幽霊なんじゃ?)
背筋に悪寒が走った。
手が震えてきた。
裕子「怖い・・・」
心臓が大きく鼓動を打った。
ひろき「どうしたの?」
ひなみちゃんも怖いようだ。ひろきの背中にすがる様に隠れていた。
謎の声は、やさしく語り掛けてくる。「怖くないでありますよ。鍵は開いているであります。」
先ほどのくぐもった声がはっきり聞こえた。
裕子「うーん、行ったれ!!!」
ドアを思いっきり開けた。