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プロローグ
「お嬢様、いかがなさいました?」
私に向かってにこやかに話し掛ける男。
「なんでもないわ」
見向きもせずにぶっきらぼうに答えるのは、きっと良家の令嬢としてお行儀の悪いことだろう。
しかしこの男は特に気に留めた様子もなく、
「左様でございますか」
とそれ以上は踏み込んでこなかった。
その余裕な態度が癪に触る。
大方、私は些細なことで機嫌を悪くしているだけで放っておけばすぐに治るだろうとでも思っているのだろう。
だが今回ばかりはそれは間違いだ。
何故なら私は知ってしまったから。
この男の秘密も、これからこの男が実行に移すのであろう計画も、全部。
(...あなたの思い通りにはさせないわ)
心の奥で密かに、けれど噛み締めて宣言する。
今この瞬間から、私はこれまでの自分と決別しよう。
もうこの男の人形には絶対戻らない。
私は私の人生を自分で選ぶのだ。