配属先
式場を出たシロハは持ち運んでいた学院の証明書を手に取った。シロハが証明書を手に取ると証明書に文字が浮かび上がった。
“シロハ・ライムエルト
担当教諭 ルイス・センドロール
教諭室 魔導自衛学部教諭棟三階三丸一一室“
担当教諭と教諭室が浮かび上がると続いて地図の映像が浮かび上がった。中心は赤い点で表示されている赤い点は式場の出入り口付近で止まっていた。シロハが証明書を見ている場所と一致している事から赤い点がシロハの現在地である事を理解した。
浮かび上がった地図には目的地である魔導自衛学部教諭棟が青い点で示されている。赤い点と青い点の間を青い点線で繋がっている。目的地までのナビゲーションシステムだ。
「これなら迷わずに行けるってことか」
シロハは青い点線が指している方向へ進み始めた。
学院の敷地は広大で証明書のナビゲーションがなければ絶対に迷子だろう。
ナビゲーション通りに進んでいくシロハの目の前には白い壁の巨大な建物が建っている。ナビゲーションに寄れば魔導自衛学部教諭棟らしい・
シロハは目の前の棟の扉を開けて中へ入った。
「三丸一一室は三階か」
証明書のナビゲーションを見つつ三丸一一室のある場所を探す。大理石でできている廊下の床を進み階段を見つけたシロハは階段を上がって三階にたどり着いた。
三階の廊下を進み三丸一一室を探していくと黒く塗装された上に金色のプレートが張られた扉が均等な距離で並んでいる場所に着いた。扉に張られた金色のプレートには四桁の数字が刻まれている。
シロハは三丸一一と刻間まれている扉を探していると証明書のナビゲーション映像が突然消えた。シロハはナビゲーション映像が消えた所にある扉のプレートを見た。
「三丸一一。ここか!」
目的地へ着いた事を認識したシロハは急に心臓の鼓動が速くなっていくのが分かった。
「……緊張する」
シロハは扉の前で緊張を抑えるため深呼吸をした。
大きく息を吐いて、ゆっくり息を吸う。これを数回繰り返した後シロハは目の前の扉にノックをした。
「中へどうぞ」
扉の奥から女性の声が聞こえた。
「失礼します!」
シロハはノックをした扉の取っ手を握り扉を開けて部屋の中へ入った。
シロハは三丸一一室の中へ入るとシロハの目の前には人が四人が立っていた。
部屋の大きな机が境になって机の前にシロハと同じ学生の制服を着ている三人。机の奥に一人立っている。
机の奥に建っている女性はは赤と黒を基調とした学生の制服に近い造りの服装を着ている。亜麻色の長い髪を肩辺りで二つに緩く結っている。肌も白く綺麗な顔立ちだが特徴的な眠そうに見える糸目が目の前の女性が何を考えているのか読めない雰囲気を感じる。ぱっと見た限りまだ十代後半から二十代前半の若い女性だ。
「君はシロハ・ライムエルトさんだね?」
糸目の女性は優しい声音でシロハの名前を呼んだ。
「はい!」
シロハは名前を呼んだ糸目の女性に大きな声で返事をした。
シロハが返事を返すと机の前にいる三人のうち一人がシロハの方に振り向いた。
「シロハ!」
振り向いてシロハの名前を呼んだ学生は式場まで一緒にいたシンカだった。
「シンカ!」
「二人共お知り合いなの?」
「はい。寮のルームメイトです」
「そうなんだ。偶然ってやつね」
シロハは糸目の女性の質問に答えた。
「それじゃあシロハさん。机の前に来て」
「はい」
シロハは糸目の女性の言う通り他の学生と同じく机の前に進む。シロハは先に来た学生達の一番右側に進むと隣にいる学生が視界に入った。
見覚えのある黒い髪に黒い瞳、色白な肌が良い衣装的な男子学生が左隣に立っていた。
「あんた!さっき式場にいた失礼な奴!」
シロハは式場で席が隣になった男子学生に指をさすと男子学生と目が合った。
「トウマ君、シロハさんとお知り合いなの?」
「いいえ。全く知らない人です。ルイス・センドロール教諭」
糸目の女性——ルイスの質問に隣の男子学生——トウマは式場で会ったシロハを覚えていないのか知らないふりをしているのか分からないがシロハと目が合うとすぐルイスの方に目を戻した。
トウマの態度にシロハは再び気分を悪くした。シロハは新入生の配属という大事な場であるのでトウマに気分が害された事を顔に出さないように意識した。
「もう一人は諸事情で一ヵ月後に配属となります。なのでその間は君達四人が僕の初めて受け持つ学生になります」
ルイスは配属される残り一人の学生が個々にいない理由を学生四人に伝えた。
「改めまして。ルイス・センドロールと言います。今日から君達を受け持つ魔導自衛学部の教諭です。今度は君達の自己紹介をよろしく。名前とこのアインベルム魔導学院へ入学を決めた理由を教えて?」
自己紹介をしたルイスは目の前にいる四人の学生に自己紹介をするように言った。
「一番最初はシンカさんからお願い」
「はっはい。シンカ・カミシロですっ。この学院で魔導の中でももっと魔女術を学ぶために入学を決めましたっ」
「そっか。ありがとうシンカさん」
シンカは緊張で声を上ずりながら自己紹介をした。
「次はライカ君」
ルイスはシンカの右隣にいる男子学生——ライカの方を向いて自己紹介をするように声をかけた。
ところどころ黒髪の混じった白髪に意志の強さと威圧感を感じさせる吊り目な金色の瞳。トウマと同じくらいの背丈だが筋肉質な体躯はトウマより大きく感じさせる。
「オレはライカ。ファミリーネームはないです。入学を決めた理由はオレに魔導の才能があると学院が送った使い魔が教えてくれたからです」
「素直でよろしい。ありがとうライカ君」
ライカは簡潔に自己紹介を終えた。
この場にいるライカ以外の学生の三人はライカにファミリーネームを持たない事に引っ掛かった。
「それじゃあ。次はトウマ君よろしく」
ルイスは他の三人がライカのファミリーネームがない事に疑問を持ったことに気付いたのかと馬に自己紹介をするよう声をかけた。
「はい。トウマ・カミシロと言います。この学院に入学を決めたのはこの学院で魔導を極めて誰よりも強くなるためです」
「すごく大きな夢だね。ありがとうトウマ君」
シロハはトウマのファミリーネームを聞いてトウマの容姿がどこか見覚えのある気がした理由が分かった。シンカと同じファミリーネーム、シンカと同じ黒髪と黒い瞳、白い肌。シンカが前に話していた双子の兄なのだろう。シロハは心の中でトウマの容姿に見覚えがあった理由が分かってスッキリした。
三人の自己紹介が終わり最後に残ったシロハをルイスは見た。
「最後にシロハさん。自己紹介お願い」
「はい。シロハ・ライムエルトって言います。あたしが学院に入学を決めたのは……」
シロハは自己紹介の途中で言葉を詰まらせてた。
シロハ以外の三人は学院が求めるような学生らしい目的で学院に入学を決めている。それに比べてシロハは他の三人のように魔導を学ぶ意欲や才能を生かす気概、魔導を極める野心で学院に入学する事を決めていなかった。それが自己紹介の途中で頭によぎり言葉に詰まってしまった。
「別に人と違う理由で入学を着た事は恥ずかしい事じゃないよ」
言葉を詰まらせているシロハにルイスが優しく声をかけた。
「証明書に血判を押した時に思った事で大丈夫だよ」
ルイスの言葉でシロハは詰まらせていた言葉を紡ぎ出す。
「……入学した理由は卒業して良いところで働いて今まで育ててくれた恩師に恩返ししたいからです」
紡ぎ出したシロハの言葉を聞いたルイスは首を縦に振って頷いた。
「立派な目標だよ」
ルイスの優しい一言にシロハは安堵した。
「それじゃあ僕はちょっと学院の事務に用があるから少し席を外すね。それまで配属された仲間同士お菓子でも食べて話してて」
ルイスは四人に席を外す事を伝えると机の引き出しから缶箱を取り出した。缶箱を開けると多種多様な焼き菓子が入っていた。
「じゃあ少し待っててね」
机に焼き菓子を出すとルイスは小走りで部屋から出た。