Little Never Land①
平穏な日々というのは人類の宝である。
この、毎日無駄に続く、永い回廊のような時間は、あまり自覚されないが大切で儚いものだ。
それを皆は毎日変化がない、と嘆き変化を刺激だと勘違いして捜し彷徨う。
不変=不幸せではない、それは安定した日常であり、何物にも変えがたいものだ。
そしてそのことを、人類は変化が起こり自分に被害が降りかかったその時に自覚するのである。
「新入生が何かやってるらしい情報が入ったわ。」
「うーん・・・元気だねぇ。」
“ガラクタ箱”の解散は他のどのクラスよりも早い。
ある者は急いでバイトへ、ある者は委員会へ、または部活へ。
進学だの就職だのという目標が無い分宙ぶらりんなこの組の人達は、空いた時間が他よりも多く、また使い方も上手い。
ようは今やりたい事に時間を注ぎ込みやすいのだ。
そうして終業と共に解散していく教室は内緒話をするのに適している。
冬月がその話を持ち出したのは六月のある日。
朝は眩しい程笑っていたの太陽が雲に隠されて、今にも泣き出しそうな夕方だった。
傘なんて持って来て無いし、これはビショ濡れだなと思ってた時。
教室には冬月とボク、そして松山しか居ない。
「元気とかいう問題かよ・・・」
「むしろ、正常じゃないわね。どいつもこいつも。」
チっと舌打ちし、腕を組んだ冬月は不機嫌に教壇に腰を掛けている。
長くてサラサラの黒髪は開け放たれた窓から入る風に揺れる。
その手に持たれた藁半紙に乱暴に殴り書きされた文章には、溜息しか零れない内容があった。
『一年棟にて奇怪現象あり』
奇怪現象の内容が全く書かれておらず、ただそれだけ。
これは調査にて内容を増やせ、対応とその後の結果を書け、という意味だ。
「我等が会長殿は忙しそうだねぇ。」
「そりゃ、一応最終学年なんだから当たり前でしょう。」
「今時、依頼書が藁半紙かよ・・・」
「経費削減のためよ。」
「今どきコピー用紙の方が安いだろうが。」
「過去の遺物がたんまりあるのよ。」
大きな学校は動くお金も大きくなる。
やりくりしている生徒会の会計や、実行している生徒会執行部の会計科は毎月頭を痛ませている。
こんなところで経費を使いたくない。
全く、世知辛い世の中だ。
「で?これをどーにかしろって?」
「“調査、可能であれば速やかに解決し報告せよ”」
「かたっくるしーなぁ。」
要は、奇怪現象がなんなのか、まずは聞き込みや現場検証する事。
こういうことはガラクタ箱がお得意なものである。
さっきも言ったが、ガラクタ箱はバイトや部活動が盛んである。
マンモス高校は学年で校舎が違う為、他学年の噂が入りにくい。
そんななか、特に部活は他学年との集まりだから噂が入りやすいのだ。
学校の情報網である新聞部でさえ情報を聞きに来るのが、各学年のガラクタ箱だ。
噂に関しては学年一と言える。
「お前の大好きな“風紀”を乱してるんだぜ?ほっといていいのかよ?」
「別に大好きじゃないし、ほっとくとも言っておらんわっ」
ダンっと机を叩く。
大きな音の割に手は痛くない。
校舎が思いっきり南に面している二年棟は運動場に一番近く、ダイレクトに野球部の練習ノイズが響く。
バットにボールがぶつかる景気の良い音、ガヤガヤと騒ぎ声。
一見すると普通の、平和な学校だ。
だが、水面下では色々と厄介事が起きている。
野球部と言えば坊主頭という固定概念を無視した茶髪や長髪の部員を窓からチラリと見て、ボクはイスから立ち上がった。
「じゃ、行きますか。」
「行かれますか。」
「さっさと片付けますか。」