Black Moon+Gold Sun 3
さて、ボクの通う“救世白亜大高校”はとてつもなく大きなマンモス高校である。
周囲十を数える中学から私学へと進まない子どもは全て此処に集まる。
ともすれば大学並に広い。
校舎も、各学年事に別れていて、三校舎と等間隔の位置で管理棟が立ち、教務室や職員室・生徒会室などがある。
一学年に大体二十近くクラスがある。
壱組に有名な頭の良い大学(国内外にかかわらず)を目指す生徒が鎮座し、順に大学進学組・専門学校進学組・就職組と拾弐組まで続く。
拾四組からは工業・農業・商業・福祉・看護・国際・芸術・体育の専門課程クラスになる。
そして拾参組――ボクのクラスはある意味特殊なクラスとなっている。
成績は学年トップクラスの人もいる、かと思えば万年欠点の生徒もいる。
運動全般的に万能者がいるし、歩くだけで転ぶ人もいる。
身長もバラバラ、性格ももちろんのこと。
ただ、そんな団体で唯一共通しているのが、“手に負えない”ということ。
教師の手に負えない、或いは学生の手に。
この学校では入学時と進学時にそれぞれ進路の希望を提出する。
その希望に則ってクラス分けが成されるが、何を考えているのかわからない事を希望用紙に書く生徒がいるのだ。
“一国の女王”とか“生きていればそれで良い”や“人間”というふうに。
ちなみにボクの進路希望は“地球で息をする”、教師も匙を投げて当然だ。
かくして、不吉な数字の拾参組はどの学年も“ガラクタ箱”とネーミングされている。
そんなガラクタ箱も授業は普通のカリキュラムを組まれている。
主に芸術や体育は専門課程の生徒と同じ時間割となっている。
芸術とはこの学校では音楽と美術になっている。
ちなみにボクの選択は音楽である。
「まさか、サボるつもりじゃねぇよな?」
「は?」
例によって例の如く。
頼まれてもいないし、むしろお断りしているのにもかかわらずボクの監視役を買って出てるらしい松山。
彼は移動教室でウダウダしているボクに言った。
ちなみに松山の進路志望は“不明”で芸術は美術を選択、次の授業はボクと別のクラスである。
一体ボクの事を誰だと思っておいでか、副風紀委員長だぞ。
授業をサボるのは風紀を乱す行為だ。
居眠りするのはその日の体調による行為であって、別に気にしないが。
「行くに決まっとるでしょう、鬱陶しいな。」
「ウダウダグダグダしてるお前が悪い。」
「大体、何でボクに突っ掛かるの。」
認めているわけでは決してないが、副風紀委員長補佐を自称してるといえど委員会活動だけだ。
普段の生活で監視、もとい、補佐する義務はない。
「お前がもっとしっかりしたら問題ないんだよ!」
「ほっときなよ、個性なんだし。」
「都合の良い事ばっかり“個性”とか言うなよ。」
「ノンノン、都合の悪い事を言うんだよ。」
グリグリと首を回しながら席を立つ。
ポキ、と音がして首筋がスッとした気がした。
都合が悪いから普通は“個性”で片付けたがるのだ。
人間は“個性”を分別する。
そして自分の“世界”に合わない意見を見下す生き物なのだ。
ボクはわざわざ教室の中を奥へと移動する。
移動教室は管理棟にある。
トイレに行っていたと言い訳してもそろそろヤバい時間だ。
教室の中にはボク達三人しかいない。
机に伏している冬月の頭をくしゃりとかき混ぜて起こす。
冬月はう゛~とか、む゛~とか言いながら身体を起こす。
「・・・寝不足なのよ、寝かせて。」
「移動してからにしなよ。」
「つーか、授業中ずっと寝てるじゃねぇか。」
「起きてるわ。」
「天気の観察してるねぇ。」
「どっちみち授業聞いてないのかよ。」
「聞いてるわよ。」
聞き流してるだけ。
右耳から入った念仏は脳を素通りして左耳へと抜けて空へとさようなら。
それでいて冬月の成績はボクより格段に良いから謎だ。
ちなみに“生きていればそれで良い”という進路希望を出したのは冬月である。
「今日の授業は長調の演奏って言ってなかった?」
「あー・・・・そうだっけ?」
「そうよ。短調ならともかく、長調って寝られないのよ。」
「結局寝るのかよ。演奏しろよ。」
「演奏は専門チームがやるのよ。私たちは寝てれば……きいてるだけでいいの。」
「いや、授業なんだから起きとけよ。」
基本的にボク達一般課程の芸術授業、特に音楽では専門課程の生徒の演奏を聞いて勉強することが多い。
学校の授業で生演奏が聞けるなんて、他ではそうそうない。
素晴らしい授業ではあるのだが、如何せん興味がない冬月にすれば音楽は騒音か子守唄の2種類しかないようだ。
ボクよりもウダウダグダグダしている冬月を立ち上がらせ、筆記用具だけをカバンに詰めて教室から引っ張り出す。
未だに長調と短調でどちらが子守歌になるかを説き伏せる冬月と、どうでもよさそうな松山。
冬月が饒舌なのは珍しい。
いつもは面倒臭いからと言って長話をしたがらない。
聞くのも適していない。
あの日から、冬月は人間と、他の“世界”との接触を拒み続けた。
必要以上に干渉せず、拘り合いを持たない。
そうする事で自分を、自分の“世界”を守る為に。
特別教室は基本的に管理棟にあるためボク達三人は仲良く同じ方向に進んで行く。
管理棟にはたくさんの教師がいる。
生徒の数が半端ないから、教師の数もやけに多い。
担任なら自分のクラスの生徒の顔ぐらいは覚えていて当然。
だがクラスに拘らず教師に顔を覚えられている人種がいる。
もちろん“問題児”というやつだ。
そんな人種が集まるのが拾参組“ガラクタ箱”。
つまり、どの学年でもこのクラスの人間は目立つのだ。
中でも、副風紀委員長として顔が売れてるボクや、生徒会執行部の冬月は一定の教師から煙たがられることが多い。
前から歩いてくる教師もそうだった。ギロリと睨んで来る。
睨まれているのはボクと冬月なのに、何故か松山が睨み返す。
そんなことをするといらない反感を買うのに。
その教師は二年の棟へと真っ直ぐ進む。
一人の生徒を連れて。
一人の男子生徒―――その人を見て、冬月の足がピタリと止まる。
ボクも止まる。
松山も。
時間までもが止まってしまった気がした。
松山が足を止めた理由はわからないけど。
けれど、ボクと冬月は同じ理由。
同じタイミングで同じ動作で後ろを振り返る。
それに気付いたように、その男子生徒も肩越しに振り返った。
横顔。
一学年でも五百人以上生徒がいる学校だ、全校生徒の顔に見覚えがある人なんて普通いない。
そんなことが可能なのは生徒会長殿ぐらいだ。
だから、クラスにいない人は見覚えのない人だ。
見覚えのない男子生徒の――――見覚えのある横顔。
カランコロンと遠くでチャイムが鳴った気がした。
そんな学校があるなら行ってみたい。
もちろん、学生にはもどれないけれど。