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  作者: 歩空
3/12

Black Moon+Gold Sun 2





過去というものは美化されやすい。

それと同時に悪化もする。

思い出を残す脳というものはとても自分勝手なのだ。

記憶はあやふやとなり、今の自分に作用する。

そして、大半は今の自分を傷付ける。

楽しい事はアルバムを開いてやっと盛り上がる話となる。

けれど嫌な思い出は大概いつもその人を縛り付ける。

フとした拍子に出て来るのはいつも嫌な記憶だったりするのだ。



「ん~・・・、君シャツのボタンが開いてる~一点減点。」


「自分、猫科なんで閉められないっス。」


「じゃあ、保留。・・・あ、君はシャツが違うねぇ。」


「部活でスライディングして破れました。」


「全滅?」


「はいっ!」


「行ってヨシっ!!」


「ヨかねーよっ!!!」



何を宣うか、副風紀委員長の決定は絶対なのだよ、凡人め。

風紀委員というのは学校の品格を落として入学者を減らさないようにするのが仕事だ。

近隣の住民やPTAというのは何気に煩い。

そういう人達のクレームに困る教員から回ってきた雑務をこなすのが学生の勤めである。



「何が“ヨくない”のかね、万年欲求不満クン。日本語は正しく変換しないといけないよ。青少年なら。」


「ちゃんと仕事をしろっ仕事をっ!お前、風紀委員だろっ?!」


「だから、してるじゃん。」



子供の言い分を聞かないのは大人の役目。

教員は大概、生徒の主張をシカトする。

ならば学生の言い分を聞くのは学生の役目だ。

こと風紀について幅を利かせるのは風紀委員の仕事である。



「完っ全に言い訳だろ、今のっ」


「猫科とスライディングが?立派な理由じゃん。」


「猫科の人間が何処にいんだよっ」


「さっき居たよ。目にレンズ体入ってる?」


「大体、制服で部活なんかしないだろっ!」


「ブレザーは破れて無かったから、脱いだんじゃない?」

「問題はそこかっ?」


「イヤ、問題はアンタが“万年欲求不満”ってトコだ。風紀を乱すな。」


「論点がズレまくってるだろっ!!」



全くもって喧しいこの男。

副風紀委員長の補償をしている。

我が校の風紀委員は毎朝、校門前で仁王立ちする。

二人一組で、名誉あるボクの相方がこの男・松山である。

ちなみにボクはこの男がニガテだ。

喧しいだけで観察のしがいがない。

どちらかというと、ボクが監視されている気がする。



「お前、何で風紀委員になったんだよ・・・」


「人を観察出来るから。」


「意味わかんねぇよ。」



分からなくて結構、理解なんて求めちゃいない。

ついでにボクの“世界”の価値観にイチャモンつけないで欲しい。

他人というのは厄介だ。

特に興味を持たれると、鬱陶しさを覚える。

クラスの大半がそうであるように、興味を持たないで貰いたい。

その方が良好な関係を築ける。



「あ。冬月。おはよ~」


「ん。ご苦労様。」


「うん。ところで、髪の毛。ストレートパーマは校則違反だよ。」


「これは個性よ。」


「そっか。」


「“そっか”じゃねぇっ!!」



松山少年の怒声が響く。

全く、喧しいことこの上ない。

副風紀委員長のボクが言っているのだ、覆すことが出来るのは風紀委員長だけだ。

よって、松山の主張は無視される。

例え、生徒が生徒の主張を聞く事を義務としていても例外や特例ぐらいあって然り。



「もう少し校則に則って仕事をしろっ!!」


「それじゃ、個性がないじゃん。何、松山はこの学校を特色の無い人間工場にしたいわけ?」


「そういう問題じゃねぇだろっ!」


「まぁ、松山の言う事も一理ある。委員に属するなら平等にならなきゃ。」


「冬月・・・・」


「尤も、茶髪の松山が言う台詞ではないわね。」


「そりゃそーだ。茶髪は校則違反。」


「これは地毛だ!」


「「信憑性がない。」」


「~~~~~~っ!!」


「あの~お前等。もう、授業始まっとるが?」


「あ、先生。ごくろーさまです。」







日常というのは、こんなもんだ。

さしたる変化もなく、続いていく。

だが、そんな日常の中でも特別、その人の“世界”に作用する“イベント”がある。

それが大きな思い出となるのだ。

“イベント”は必ずしも大きさに左右されない。

一番大事なのは内容だ。

人生や人間という“世界”を左右する“イベント”。

“世界”を崩壊させるほど。


ボクも冬月も少なからず崩壊していた。

二人とも人間としてあるべき感情が抜け落ちている。

即ち、女の子として人に興味を抱く事。

同じ年頃のクラスメートは皆食いつく、恋愛話。

それについて行けないというのも、ボク達が浮いてしまっている原因の一つだ。

そして冬月の“世界”を崩壊させた“イベント”は、ボク達が小学生の時に起こった。


その日、何とはないある日。

クラスメートの男の子が死んだ。

ボクはなんとなく話す程度の付き合い。

でも、冬月は席が隣りで、仲がよかった。

冬月はその男の子が“好き”で、男の子も冬月が“好き”。

その頃の冬月にはまだそんな概念があった。

そしてソレは始まった。

前の日の夕方、一緒に遊んで、宿題もした。

その日もそうなる筈だった。

けれど、男の子はその場に来る事なく、別の場所で死んでいた。

ボク達が知ったのは次の日の朝。

他のクラスメートがボク達に教えてくれた。

いつも早く登校する男の子がなかなか来ないと心配する冬月に言った。

笑って、言った。



『千尋、死んだよ。』



残酷な言葉。

知らない事を嘲笑っていたのか、それともクラスメートが死んだという事実を純粋に喜んだのか。

どちからわからない。

どちらにしても、残酷。

後者ならもっと、残酷。

目の前で消えていくモノ、浮かび上がってくるモノで冬月は崩壊していた。

グズグズと誰もが鼻を鳴らし、涙を流す中、冬月は一人真っ直ぐに遺影を見ていた。

感情のない瞳で、見つめていた。


思い出は現実に起きた事より美化されて残る。

同時に悪化もする。

冬月の記憶も思い出となり、悪化して美化された。

今では何が本当かわからない。

ただ一つだけわかる真実は、冬月の側に千尋がいない、ということだけ。








バシンっ



「い・・・・・っ!?」



この時期の冬月はボーっとしている。

雨なら切なそうな声を、晴れたら晴天を睨む。

そんな冬月をボクは斜め45゜後ろから観察する。

冬月は窓側の一番前、ボクは廊下側の一番後ろに位置する。

冬月の髪は真っ黒で、肌はとても白い。

病弱ですぐに儚くなる物語りの主人公のような出立ちだ。

或いは白雪姫か。

しかし、その表情はいつも不機嫌極まりないし、無愛想。

腹の中は純粋とは程遠い。

そんな彼女が感傷に浸る。

ボクはそんな冬月を毎年、観察していた。



「ボーっとしてんなっ!お前、そんなだから先公に目ぇ付けられんだよっ」


「・・・・大きなお世話。」



観察をしている間のボクは幸せだ。

他の“世界”を覗く神のような心境。

そう言ったら少し大袈裟かもしれない。

だがそんな幸せを壊す存在がこのクラスに鎮座していた。

ボクの代名詞とも言える副風紀委員長の補償(自称・非認知)こと、松山である。

松山の席は窓際七番目、ちなみに一番後ろ。

ボクの席とは90゜直角に位置する。

3限目終了後、松山はすぐにボクの頭をハタキに来た。

教科書で叩いてきたからなかなか痛い、もちろん角ではないが。

全くもって、大きなお世話である。



「数学で課題出されたの、忘れてんだろ、どうせ。」


「失礼な、思い出してるよっ」


「・・・いつ。」


「今。」



ちなみに、今の今まで忘れていた。

課題も宿題も、その場で考えればいい。

テストだって家には持って帰れないのだ。

家で勉強とか学校ですべき事をやるのはおかしい。

もちろん、そんな言分が通じない、通らないのが現代社会の一般常識である。

ボクがどんなにボクの常識を唱えたところで、課題を出した教師は納得しないだろう。

もっと多い課題をだされるんだ。

それは鬱陶しい。

出来ればボクはボクのことを放っておいて欲しい。

必要以上に目をかけて欲しくない。

良い意味でも、悪い意味でもだ。




「馬鹿か、お前はっ!」


「ばっ!松山に言われたく」


「本っ当に王馬鹿者ですわっ!」


「ない・・・・・ん?」


「・・・・お前、なにしに来たの。」




急に現れた人物にボクも松山も毒気を根こそぎ奪われる。

というか、むしろ毒を吐き散らかさん限りの怒声を振りまき、これでもかというほど偉そうに反らした胸に腕を組んだ我がクラスの女王様がボクの目の前に現れた。

この女王様は名実共にクラスの(特に女子群)のリーダーで、つい先日までボクや冬月を進んで燻してした。

つまりは、放っておいて欲しいのに、優しくも冷たく笑い者として遊んでおられたのだが。

現在はどんな心変わりがあったのか、こうして良くお話をして下さる。




「この王馬鹿者の愚民さんに救いの手を差し延べに来てあげましたの。私、天使や神のように優しいでしょう?」


「・・・・自分で言ってちゃ世話ねぇな。」


「救いの手?」




大きな胸を反らしながら女王様こと橘伽蓮はボクにルーズリーフを一枚突き付けた。

反射的に受け取ったソレは、ボクに与えられていた課題である。

ちなみに、与えられたのはボクだけなので他のクラスメートがする必要はない。




「・・・?コレ?」


「わ、私には必要ありませんもの。予習の為にやっただけですわっ!」




そういうことを聞いたわけじゃないのだが。

ともかく、課題の答えをくれるらしい。

しかもとても丁寧に、所々コメントまで入れて分かりやすく書いてある。




「・・・ありがとう。すっごい助かった。」


「あ、当たり前ですわっ!」




少しだけ頬を紅くして女王様はクラスのど真ん中に位置する自分の席へと戻っていく。




「女王を手懐けたな、お前。」


「うーん・・・・」




仲良くなった、と普通なら言うのかもしれない。

どうしてそうなったのか、はまた別の観察である。








オカルト要素がまだ出てきていませんが、一応この作品はオカルト小説怪奇小説です。

もう少し平和な日常にお付き合いください。

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