葛城道場の悪夢
久々に動いたから、なんかだりぃ。ちょい多めに生命力持ってかれたんじゃね?あいつら、神霊の癖に、契約守れよな~。子供の頃から、
「アンタ、生命力異常にあんだから、沢山貰ってよござんすね」
とかほざきやがって。ま、そのぶん、同じ技でも強力になった。そんで、俺は神童って呼ばれた。免許皆伝は15ん時さ。
あんときゃ、みんな喜んでくれたなあ。伏見の小父さんも、祝いに駆けつけてくれてさ。嬉しかったなあ。
俺はまだ中学生で、クラスの連中は、受験勉強真っ只中の夏休み。俺も、道場継ぐのは決定だから、きちんと経営学を学ぶつもりだった。修行の傍ら、勉強だってしてたぜ。
「ケンちゃん、皆伝ってことはな、来週から、独り現場に出るってこった。気合い入れなよ」
「こんな坊主にゃ、可哀想だけどね」
独り現場、ってのは、自分がリーダーで働く現場だ。本来は、言葉通りに独りで出張る。規模や経験に合わせて、サポート付けてくれんのさ。
何れは、その采配も任されんだな、って、そんときゃ緊張したね。
*****
「どうした、ケンちゃん、険しい顔して」
一族や同業者のみんなは、お酒も入って、明るい笑顔で話しかけてきた。
「ケン!」
親父が、床を蹴って立ち上がった。すげえ怖い顔してたな。俺も無言で、悪霊の気配に向き合ったんだ。
けど、遅かった。気づいた時には、真っ黒、真っ赤、真っ黄色、兎に角原色の絵の具みてぇな悪霊たちが、次々に宴席へと入って来やがったのさ。
「ぎゃあっ」
手練れの除霊師さん達が、ペンキ缶を頭から被ったみたいになっていく。
「ぐうっ」
別の流派から祝に来てくれていたおばさんが、数珠を手にして唸る。全身ピンクに染まっていた。
「ケン、色にさわんな」
従姉妹のマスミ姉ちゃんが、黄色と黒のツートンになって、転がりながら叫ぶ。
「力持ってかれるぞ」
親父も、青に黄色の斑点を着けた状態で、悔しそうに拳を握っていた。
ダイレクト・インパクト中心の葛城流には、不利な悪霊だぜ。しかも、動きが速い。数も多い。遠隔除霊術の先輩方も、手こずってた。
伏見の炎小父さんが、狐火を操って、色の悪霊を追い詰めて行く。触れずに囲い込めんのは、強ぇな。
固まったな。色は混ざり合わねぇ。極彩色のマーブル模様だ。綺麗なボールにゃなんねぇのな。
「ケンちゃん、行けるか?」
仕方ねぇ、実践じゃ初めての大技かますか。
こいつが、秘奥義。俺じゃなかったら、生命力全部持ってかれちまう。命と引き換えの自爆技だ。
俺は徐に秘術用の紙屑を掴む。
「大神霊さん!頼んますぜ」
紙屑に神霊がやって来るのが、解った。
「アンタ、生命力異常にありますね」
痩せこけた爺ちゃんが、紙屑から身を乗り出して、話しかけて来た。こんな事は、初めてだ。
秘奥義を習った時には、声なんか聞こえなかった。勿論、命と引き換えの大技なんざ、練習出来ない。大神霊さんを呼んで終わりだ。お礼言って、ちょっと生命力分けて、お帰りいただいたんだ。
「力貸して下さい」
「うん、いいよ」
俺は、全身に大神霊の力が漲るのを感じながら、色の塊に突っ込んだ。降りかかろうとしやがる悪霊どもを、拳圧で押し戻し、蹴り上げ回転する勢いで吹き飛ばす。
俺は、無我夢中で動き回った。
気づいたら、悪霊は消滅していた。
「沢山貰ってよござんすね」
ホクホク顔の爺ちゃんが、ごっそり俺の生命力を持っていきやがった。初代と結んだ契約より、随分多いんじゃねえのか。
それでも、俺は倒れなかった。
「ケンちゃん、大丈夫かい」
伏見の小父さんが、駆け寄ってきた。
見回すと、俺と小父さん以外は、倒れている。絵の具みたいな汚れは消えていた。
けど、みんな、土気色して、息絶えていた。
次回、古びた看板
よろしくお願いします