最終話 跡取り娘
あ、霊刀はまだいたな。浪人の腰に戻ってる。
「こやつとふたり、もう日を数えるのも忘れてしまうほど、ずっと悪霊どもと闘いばかり」
浪人は俺の方を困ったように見る。怨念ではない。復讐心も見られない。心残りや執念も感じ取れない。一体この幽霊は、なぜ悪霊と闘い続けているのだろうか。
「みーちゃんのような輝く命を振り撒くお子をお見かけいたせば、報われる気もするというもの」
困ったように見えたのは、どうやら感動の涙を堪えていたらしい。
「いや、そんな大袈裟な」
「貴方様も死ねばお分かりになりまするよ」
物騒だな、おい。
だが別段取り殺される危険はねえな。
「われら、神仏に特別な加護を受けしものは、永劫の時を闘うのみ」
「えっ」
なんだって?
「拙者、この友なる霊刀とともに、迂闊にも身体を失うことなくば、いまも生身の除霊働きをする身の上であり申した」
お、おおう。
きな臭くなってきやがったな。
操もいつものワイルドさを見せず、ポカンと浪人幽霊を見上げている。
「拙者は独り身でありつれど、そこもと様はご家族お揃いで強い加護をお受けなされて。おめでたいことで御座いまするなあ」
めでたくねえ。
冗談じゃねえよ。
「生身を失えば便利もありますが、やはり油断の生んだこと。そのまま人知れず悪霊と対峙するばかり。時には虚しい思いも生まれます」
浪人幽霊はふうっと息を吐く。
「多くの同胞が、虚しさに囚われ悪霊に堕ち果てました。それを葬るときの」
幽霊は、言葉を切って下を向く。肩が震えている。ああ、たしかに闇落ち連中は普通の悪霊よりタチが悪ぃよな。仲間への悲しみと、自分もいつかはそうなるかも知れない恐怖。
そこへ、輝く命の子供たちと出会えば、一気に明るい気持ちにもならあな。
「お引き止め致しました」
「あ、いえ」
「ではな、みーちゃん、達者でくらせ、精進いたせよ」
「んーっ?」
「頑張れよってこった」
「あっと!」
操はにこにこ幽霊に挨拶をした。幽霊は、どこかに悪霊の気配を感じたらしく、全身の雰囲気を引き締めてふわりと空に浮き上がる。
「あんたも達者でな」
「なー」
身体はねえけど、悪霊化せずに達者で除霊に励んで欲しいものだ。
「はあ、全く余計なことしてくれたぜ」
家に帰って、妙子に報告する。
「どうりで急に力が増したと思った」
妙子はずいぶんと気楽な様子。
「なるようにしか、なんねえな」
「そうよ」
「そうよー」
「昼何食う?メシ行く?」
「おでん作った。みーちゃんにおじゃがあるし」
操のは途中で小鍋に分けた薄味のやつだな。最近はすり潰さない奴もパクパク食ってる。おでんなら色々食べられそうだ。火傷だけは注意だな。
「よーし、みー、手え洗うぞー」
「バシャバシャねー」
洗面所に向かうオレを、操がたたっと追い越す。その頭にも肩にも背中にも、いろんな神仏を乗っけてゆく。いつのまにか増えたよなあ。
ほんとに、操は将来有望な跡取り娘だぜ。婿とりだけが心配だよな。
いや、まだ早い。
いまはおでんのことだけ考えよう。
完
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