虫取幽霊(後編)
退勤後にネットで調べてみる。虫取少年幽霊の服装から年代を予想して、古い写真を探す。幸いすぐに見つかった。地元の郷土資料館ホームページに、昔の様子を写した画像アーカイブがあったんだ。
虫取少年の幽霊が出現する雑居ビルは、その頃には存在していなかった。その辺りは、だだっ広い原っぱだったようだ。さぞかし虫も取り放題だっただろう。
昔の様子も解った事だし、現地に向かう。俺もボランティアじゃないから、害が無さそうならビルオーナーに話すかどうか考えちまう。悪霊になってからじゃ遅いんだがよ。下手すると、信じて貰えないからな。実害の出る前の居座り型幽霊は。
そう言う人の心の機微みたいなのは、妙子のほうが解りそうだよな。相談してみよう。それに、妙子は押しが強い。全く退かない。前進あるのみだ。もし、話したほうがよい案件なら、契約交渉は妙子に任せよう。
そんな訳で、ビルの一階にあるカフェで、妙子と待ち合わせる事にした。
「あ、いたいた、ケン」
「おう、呼んじまってごめんな、タエちゃん」
「うぅん、悪霊どこ?プチっと消しちゃう?」
毎日の事だが、無駄に色っぽい声だ。言ってる内容とは全く合わない。まだ明るいうちから、堂々と街中でする話題でもねえな。
「いや先ずは、霊の確認とビルの人達に聞き込みかな」
「えーっ怪しまれないかな」
「妙子雑談得意だろ」
「なあに、それぇ。アハハハ」
豪快に笑ってるのに、妙な色気を振り撒く妙子。回りのカップルや家族連れの女性から殺気が飛んでくる。
少年とはまた違う悪霊が集まってきそうだぜ。
通りがよく見える大きなガラス張りの窓を持つこの店は、隣に緑の多い雑貨屋がある。最初は花屋かと思ったが、よく見ると中にも入り口にも何に使うのか良く解らない、謎のお洒落雑貨がならんでやがる。
この店は店内にも鉢植えを沢山飾っていた。注文を取りに来たカフェの店員さんに聞くと、そこに蝶がよく迷い込んでいたという。雑貨店の外に置かれたプランターには、バッタやカマキリがいるそうだ。意図せぬビオトープってヤツだな。
「珍しい蝶がいるの?」
妙子が興味を示す。バラ好きな人は蝶もだいたい好きだよな。バラ園を喜んでた妙子も、よく蝶の柄着てんな。アクセサリーも蝶の形のやつが多かったような。
「いませんねえ」
店員が淡々と言う。あんまり虫に詳しく無さそうな青年だな。めんどくさいから適当に答えてんだろ。語り出されたら困るって雰囲気出してんぜ。
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