庭園幽霊(後編)
着物の幽霊は、1人で並んでいる。他の人々にも見えてんだろうか。半透明とはいえ、向こう側が透ける程じゃねえし。レトロファッション幽霊の女性は、きっかり1人分の隙間に収まって、ツルバラのトンネルへと近づく。
「見えてんだろうなあ」
「無害そうだけど、意外ね」
誰にでも見える霊ってのは、霊としての力が強い。怨霊とか悪霊とかに多い。その場合は、自然に見えてしまう力が溜まったパターンだ。相当の怨念だよな。
あと考えられるのは、何らかの意図や心残りから、人に見えるようにしているケースだ。こっちも、かなりの霊力が無いと無理なんだ。怨念よりは、想いかな。
例えば、事故にあった人がすげえ善人で、ここは危ないですよ、と知らせたい場合なんかに起こる現象だね。
「とくに危険な場所でもないしなあ」
「子供が棘に触れないようにとか?」
「それはあるかもな」
「聞いてみる?」
「そうするか」
些細な忠告の為であったとしても、この世ならざるものが永く生者の中に留まる事は、歪だ。最初は善意でも、切っ掛けがあれば悪霊に転じちまう。
俺達除霊師は、そういう無害な霊達も、成仏させてやんないといけねえ。
さて、着物の幽霊は、静かに列を進む。花の見学なので、皆ゆったりとした歩みだ。幽霊女性は、なかなかツルバラのトンネルまで到着しない。
話しかけるチャンスだ。
トンネルまでの道は、何も行列部分だけじゃない。むしろかなり広くて、トンネルの手前で幾筋かに分岐している。
俺達は、難なく幽霊着物婦人に追い付いた。
「バラ、お好きなんですね」
とりあえず、無難に声をかける。
「お召し物、素敵だわ。薔薇の帯留め、然り気無くて」
妙ちゃんが着物トークを始めた。俺には全く解らない。
オビドメが何なのかも知らない。帯とか柄とか、髪型とかの一般用語は、辛うじて聞き取れる。
でも、それに関して何やら盛り上がっている内容は、どこまでが一つの単語なのかも、見当がつかねえな。
なんでも、着物の場合、薔薇園にガッツリ薔薇の模様で来るのは野暮なんだそうだ。幽霊と二人して、そんな話で意気投合してやがる。
オキモノとやらは、関連性や季節の先取りで表現するものらしい。
表現。ふーん。
女性は大変だな。
男でも、ファッション好きなやつは表現てやつをすんのかも知れねえけど。
よくわからん。
時々着物着てるのは知ってたけど、ここまで興味があるとはな。生き生きして可愛いっちゃ可愛いい。だけど、ちょっと熱心過ぎて恐えな。
まあでも、妙子が居て助かった。お陰で、幽霊と友好的に交流する事に成功した。
次回、庭園幽霊完結編
よろしくお願い致します




